トップアイドルは白衣の天使に恋をする-Rebirth-

優朔side

深い山々に囲まれたロケ地は、日が落ちると容赦のない静寂と寒さに包まれる

今回のドラマは、僕がずっと熱望していた本格派のサスペンス

外界と断絶された極限状態の心理戦を描くため、監督のこだわりで本当に電波すらまともに入らない山奥の集落に籠もりっきりの撮影が続いていた

「はい、カット! オッケー、今の表情最高だよ優朔くん! 完璧だ!」

監督の熱のこもった声が響き、張り詰めていた現場の空気が一気に弛緩する

僕はカメラの前から一歩退くと、深く息を吐きながら劇中の鋭い眼光を消し、いつもの自分へと戻った,

「優朔くん、お疲れ様! 凄まじい気迫だったよ本当にこの役に命を懸けてるね」

「ありがとうございますどうしても、この作品を最高のものにしたいんです」

スタッフから手渡された防寒用のコートを羽織りながら、僕は微笑みを返す

みんなは僕のこの熱量を、役者としてのストイックさだと思っている

もちろんそれもあるけれど、本当の理由は、もっと別のところにあった

格好いい姿になって、梓に届けたい

ただ、それだけだった

テレビの向こうで僕の帰りを待っている『天使』に、「やっぱり優朔はすごい」と誇りに思ってもらいたい

その一心だけで、過酷なスケジュールも極寒のナイトロケも、限界を超えて戦い抜くことができていた

控室代わりのロッジに戻り、真っ先に衣装のポケットからスマートフォンを取り出す

画面の右上を見ても、アンテナは一本も立っていない

溜息を一つついて、写真のフォルダを開いた

そこにあるのは、出発前夜、僕のリビングのソファで僕の腕の中にすっぽりと収まりながら、恥ずかしそうに微笑む梓の写真

「……会いたいな」

ぽつりと、静かな部屋に本音が溢れる

数日前の夜、一箇所だけ電波が拾える山の下まで全力で走って、奇跡的にビデオ通話が繋がったときのことを思い出す

画面の向こうの梓は、目が少し赤くて、寂しそうに泣いていた

親友の惚気を見て羨ましくなっちゃった、なんて、愛おしすぎるワガママを零しながら

あんな顔されたら、今すぐ撮影放り出して抱きしめに行きたくなる

「……はぁ」

ロッジの硬いパイプ椅子に深く腰掛け、僕は天を仰いだ

東京にいれば、今頃仕事が終わった梓を車で迎えに行って

僕の家で好きなだけ甘やかしてあげられたのに

今思い出しても、胸の奥がキュンと締め付けられて同時に猛烈な独占欲が暴れそうになる