トップアイドルは白衣の天使に恋をする-Rebirth-

震える指先で、通話ボタンをスライドさせる

耳元にスマホを当てると

すぐに懐かしい吐息が聞こえた

『……あ、梓? お疲れ様今、仕事終わった?』

スピーカーから聞こえる優朔の声は、いつも通り優しくて

その響きに触れた瞬間、胸の奥に溜まっていた感情が、一気に涙となって溢れそうになる

私はグッと声を詰まらせて、必死にいつものトーンを作った

「うん、今終わったよ優朔もお疲れ様」

『そっか、今日も大変だったね
……あのさ、梓』 

優朔の声が、少しだけ真面目なトーンに変わる

あぁ、きっとあのニュースのことだ

そう察しただけで、心臓がまた小さく悲鳴を上げる

『ニュース、もう見た……よね?』

「……うんさっき、SNSのトレンドで見ちゃった」

嘘をついても仕行かないから正直に答えた

電話の向こうで、優朔が小さく息を吐く気配がする

『驚かせてごめんね
ずっと梓にどう話そうか迷ってたんだ
ギリギリまで公式発表のタイミングが分からなくて……
決して隠したかったわけじゃないんだよ?』 

焦ったような、申し訳なさそうな彼の声

優朔が仕事に対してどれだけ誠実か、私は痛いほど知っている 

だからこそ、彼女である私が足を引っ張るような真似はしたくなかった

「ううん、分かってるよすごいね優朔
ずっとやりたかったサスペンスドラマの主演でしょ?
本当におめでとう」

精一杯の笑顔を声に乗せて、無理して明るく振る舞うだ

けど、やっぱり寂しさは隠しきれなくて

最後の「おめでとう」の語尾が、微かに震えてしまった

長い沈黙が流れる

あ、失敗しちゃったな、と思った時にはもう遅かった

毎日一緒にいて、誰よりも私のことを見ている優朔が、その小さな変化に気づかないはずがない

『……梓』

「…ん?」

言葉を発すると涙が溢れ出てきそうで

『声…震えてる…寂しい?」

優しく、そう聞いてくれる

「んーん、大丈夫優朔の大きなチャンスだから
私、ちゃんと応援したいもん」 

ポロポロと溢れ出してきた涙を手の甲で拭いながら、必死に強がる

すると、受話器の向こうから、ふっと優しく、愛おしそうな笑い声が聞こえた

『ありがとう梓にそう言ってもらえるのが、一番心強いよ』

『……でもね』

優朔の言葉が一度途切れ、車のハザードランプがチカチカと点滅するような規則正しい音が、受話器越しに小さく聞こえてきた

『僕だって、1ヶ月も梓に会えないなんて耐えられない今朝だって、もっとこうしてたいって本気で思ってたんだから』

「優朔……?」

『だからさ、強がらないで、僕の前では寂しいって言ってほしい」

『ほら右側見て?』

右側??

慌てて歩道から右側の車道へと目を向ける

少し離れた街路樹の陰に見覚えのある黒い高級車がハザードを出して停まっていた

運転席の窓が少しだけ開き、バケットハットを被った優朔がスマホを耳に当てたまま僕を見つめているのが分かった

『ちゃんと直接、梓の顔を見て話したくて、迎えに来ちゃった』

『おいで、梓』

その優しいの声に私の足は考えるよりも早く彼のもとへと駆け出していた