郊外にある美術館の駐車場に車が滑り込む
エンジンが止まると、車内は急に静かになった
「よし、着いた梓、行こうか」
助手席の私を振り返った優朔は、深めのバケットハットに黒縁の伊達メガネという姿
普段のきらびやかな衣装とは違う
落ち着いた黒のサマーニットがよく似合っていて
それだけで胸がトクンと跳ねる
車を降りて受付へ向かおうとした時、優朔がさりげなく私の右側、つまり通路側にすっと回った
車が通り抜けるわけでもないのに、自然に私を守るような位置をキープしてくれる
その流れるような気遣いに、早くも顔が熱くなった
館内に一歩足を踏み入れると、ひんやりとした静寂が私たちを包み込む
天井が高く、薄暗い展示室
飾られた大きな絵画を前に、私たちは自然と肩が触れ合うほどの距離で歩いていた
「これ、ルネサンス期の技法を現代風にアレンジした作品らしいよ」
優朔が私の耳元に顔を寄せ、他のお客さんの迷惑にならないような、掠れた小さな声で囁いた
「……詳しいんだね、優朔」
「昔、絵画がテーマのドラマに出たことがあってさ
その時に少し勉強したんだ
この画家、光の描き方がすごく綺麗で好きだなと思って」
展示を見つめる優朔の横顔は、真剣で、どこか神秘的だった
私と優朔は、年齢が一つしか違わない
なのに、彼はたくさんの経験を積んでいて、自分の言葉でしっかりと作品の魅力を語ることができる
普段、看護師として働いている私は、患者さんの前では「しっかりしなきゃ」と気を張ってばかりだ
だけど優朔の前にいると、その圧倒的な落ち着きと包容力に、心がすっと解き放たれていくのが分かる
1つしか変わらないのに、どうしてこんなに大人に見えるんだろう…
スポットライトを浴びていなくても、隠しきれない彼の知性とオーラ
そして、私の歩幅に合わせていつもより少しゆっくりと歩いてくれる言葉にしない優しさ
そんな彼の横顔を見上げているうちに、胸の奥から愛おしさがじわじわと溢れてきた
やっぱり、好きだな……
言葉にはできない想いが込み上げて、私はきゅっと自分の洋服の裾を握りしめた
すると私の視線に気づいた優朔が、メガネの奥の瞳をふにゃりと和ませてこちらを振り返る
「どうしたの?
梓にそんなに見つめられたら僕、展示に集中できないんだけど」
悪戯っぽく微笑む彼の顔が、展示室の微かな光に照らされて、信じられないくらい綺麗だった
「な、なんでもないただ、優朔は本当にすごいなって思っただけ」
「何が?
「物知りだし、落ち着いてるし……
私と一つしか違わないのに、なんだかずっと大人に見えるから」
本音を少しだけ零すと、優朔は一瞬目をごくまるくして、それからすぐに愛おしそうな、ひどく甘い目元になって私の頭をぽんぽんと叩いた
「梓にそう言ってもらえるのが、一番嬉しい
……ほら、次のエリア行こうか」
優朔が私の背中にそっと手を添えて歩き出す
大きな展示室を抜けると中庭に面した全面ガラス張りの明るく開放的な休憩ロビーに出た
その時だった
近くの自動ドア付近で、ガシャーンという鈍い音と、小さな悲鳴が聞こえた
「――っ!」
私の身体は、考えるよりも先に動いていた
エンジンが止まると、車内は急に静かになった
「よし、着いた梓、行こうか」
助手席の私を振り返った優朔は、深めのバケットハットに黒縁の伊達メガネという姿
普段のきらびやかな衣装とは違う
落ち着いた黒のサマーニットがよく似合っていて
それだけで胸がトクンと跳ねる
車を降りて受付へ向かおうとした時、優朔がさりげなく私の右側、つまり通路側にすっと回った
車が通り抜けるわけでもないのに、自然に私を守るような位置をキープしてくれる
その流れるような気遣いに、早くも顔が熱くなった
館内に一歩足を踏み入れると、ひんやりとした静寂が私たちを包み込む
天井が高く、薄暗い展示室
飾られた大きな絵画を前に、私たちは自然と肩が触れ合うほどの距離で歩いていた
「これ、ルネサンス期の技法を現代風にアレンジした作品らしいよ」
優朔が私の耳元に顔を寄せ、他のお客さんの迷惑にならないような、掠れた小さな声で囁いた
「……詳しいんだね、優朔」
「昔、絵画がテーマのドラマに出たことがあってさ
その時に少し勉強したんだ
この画家、光の描き方がすごく綺麗で好きだなと思って」
展示を見つめる優朔の横顔は、真剣で、どこか神秘的だった
私と優朔は、年齢が一つしか違わない
なのに、彼はたくさんの経験を積んでいて、自分の言葉でしっかりと作品の魅力を語ることができる
普段、看護師として働いている私は、患者さんの前では「しっかりしなきゃ」と気を張ってばかりだ
だけど優朔の前にいると、その圧倒的な落ち着きと包容力に、心がすっと解き放たれていくのが分かる
1つしか変わらないのに、どうしてこんなに大人に見えるんだろう…
スポットライトを浴びていなくても、隠しきれない彼の知性とオーラ
そして、私の歩幅に合わせていつもより少しゆっくりと歩いてくれる言葉にしない優しさ
そんな彼の横顔を見上げているうちに、胸の奥から愛おしさがじわじわと溢れてきた
やっぱり、好きだな……
言葉にはできない想いが込み上げて、私はきゅっと自分の洋服の裾を握りしめた
すると私の視線に気づいた優朔が、メガネの奥の瞳をふにゃりと和ませてこちらを振り返る
「どうしたの?
梓にそんなに見つめられたら僕、展示に集中できないんだけど」
悪戯っぽく微笑む彼の顔が、展示室の微かな光に照らされて、信じられないくらい綺麗だった
「な、なんでもないただ、優朔は本当にすごいなって思っただけ」
「何が?
「物知りだし、落ち着いてるし……
私と一つしか違わないのに、なんだかずっと大人に見えるから」
本音を少しだけ零すと、優朔は一瞬目をごくまるくして、それからすぐに愛おしそうな、ひどく甘い目元になって私の頭をぽんぽんと叩いた
「梓にそう言ってもらえるのが、一番嬉しい
……ほら、次のエリア行こうか」
優朔が私の背中にそっと手を添えて歩き出す
大きな展示室を抜けると中庭に面した全面ガラス張りの明るく開放的な休憩ロビーに出た
その時だった
近くの自動ドア付近で、ガシャーンという鈍い音と、小さな悲鳴が聞こえた
「――っ!」
私の身体は、考えるよりも先に動いていた


