会議室ではまだ拍手が続いていた
スタッフたちも笑っている
泣いている人もいる
黒瀬さんなんて完全に目が赤かった
本人は必死に隠しているけど長い付き合いだから分かる
たぶん泣いている
いや間違いなく泣いている
奏はそんなみんなを見ながら何度も頭を下げていた
「ありがとうございます」
「本当にありがとうございます」
その度に
「もういいって」
「頭下げるな」
「今日はそういう日じゃない」
色んな声が飛ぶ
会議室が温かい笑いに包まれる
そしてふと俺は窓の外を見た
夕方だった
柔らかい光が差し込んでいる
長かったな
本当に長かった
アイドルになってから色んなことがあった
初ライブ、武道館、ドーム、紅白、主演ドラマ、海外公演
数え切れないくらいの景色を見てきた
でも今日という日は
きっと
そのどれとも違う
一生忘れない
そう思った
隣では蒼依がまだ興奮している
「やばいっす」
「マジでやばいっす」
「やっと4人っすよ!」
何回同じこと言うんだ
思わず笑う
優朔も呆れた顔をしている
「いやだって!」
蒼依は奏を見る
「早くライブやりたいっす!」
その言葉に奏が少しだけ困ったように笑った
「リハビリ頑張ります……」
「ほどほどにね」
優朔が即座に言う
会議室に笑いが起こる
その空気が嬉しかった
普通の会話
普通のやり取り
それがどれだけ大切だったか
この数か月で嫌というほど思い知った
その時、社長が再び口を開いた
自然と全員が静かになる
社長は奏を見る
そして俺たち三人も見る
「勘違いするなよ」
少しだけ厳しい声
蒼依が姿勢を正す
「はい」
社長は続けた
「復帰がゴールじゃない」
その言葉に全員が頷く
もちろん分かっている
社長は静かに言う
「ここからだ」
「失ったものを取り戻すのも」
「ファンへ恩返しするのも」
「もう一度上を目指すのも」
その声には力があった
「全部ここからだ」
俺たちは黙って聞く
社長は少し笑った
「ただし」
そして珍しく柔らかい顔になる
「今日は喜べ」
会議室が少し和む
「今日くらいは」
「頑張った自分たちを褒めろ」
その言葉に誰も返事ができなかった
胸がいっぱいだったから
俺は奏を見る
奏も泣きそうな顔をしている
たぶん同じことを思っている
ここまで来られたのは自分一人じゃない
支えてくれた人がいた
信じてくれた人がいた
待っていてくれた人がいた
だから今ここにいる
社長が会議室を出て行く
黒瀬さんも続こうとして
ふと立ち止まった
振り返る
そして照れ臭そうに言った
「……おめでとう」
一瞬
会議室が静かになる
次の瞬間
蒼依が吹き出した
「黒瀬さんが素直!」
「うるさい!」
黒瀬さんが即座に怒鳴る
全員が笑った
奏も笑った
泣きながら
でも
確かに笑っていた
その顔を見た瞬間
俺は思う
大丈夫だ
もう大丈夫だ
これから先も
簡単な道じゃないだろう
失った時間は戻らない
傷も完全には消えない
それでも
俺たちはまた歩き出せる
四人で
同じ方向を向いて
そして
会議室の壁に掛かったグループ写真へ視線を向ける
デビュー当時の俺たち
若くて
無鉄砲で
夢だけを追いかけていた頃
あの頃は知らなかった
仲間を失いそうになる恐怖も
守りたいと思う気持ちも
こんな未来も
でも
だからこそ思う
この数か月は無駄じゃなかった
痛みも
涙も
全部
今日へ繋がっていた
俺は小さく笑った
そして心の中で呟く
――おかえり、奏
本当に
おかえり
スタッフたちも笑っている
泣いている人もいる
黒瀬さんなんて完全に目が赤かった
本人は必死に隠しているけど長い付き合いだから分かる
たぶん泣いている
いや間違いなく泣いている
奏はそんなみんなを見ながら何度も頭を下げていた
「ありがとうございます」
「本当にありがとうございます」
その度に
「もういいって」
「頭下げるな」
「今日はそういう日じゃない」
色んな声が飛ぶ
会議室が温かい笑いに包まれる
そしてふと俺は窓の外を見た
夕方だった
柔らかい光が差し込んでいる
長かったな
本当に長かった
アイドルになってから色んなことがあった
初ライブ、武道館、ドーム、紅白、主演ドラマ、海外公演
数え切れないくらいの景色を見てきた
でも今日という日は
きっと
そのどれとも違う
一生忘れない
そう思った
隣では蒼依がまだ興奮している
「やばいっす」
「マジでやばいっす」
「やっと4人っすよ!」
何回同じこと言うんだ
思わず笑う
優朔も呆れた顔をしている
「いやだって!」
蒼依は奏を見る
「早くライブやりたいっす!」
その言葉に奏が少しだけ困ったように笑った
「リハビリ頑張ります……」
「ほどほどにね」
優朔が即座に言う
会議室に笑いが起こる
その空気が嬉しかった
普通の会話
普通のやり取り
それがどれだけ大切だったか
この数か月で嫌というほど思い知った
その時、社長が再び口を開いた
自然と全員が静かになる
社長は奏を見る
そして俺たち三人も見る
「勘違いするなよ」
少しだけ厳しい声
蒼依が姿勢を正す
「はい」
社長は続けた
「復帰がゴールじゃない」
その言葉に全員が頷く
もちろん分かっている
社長は静かに言う
「ここからだ」
「失ったものを取り戻すのも」
「ファンへ恩返しするのも」
「もう一度上を目指すのも」
その声には力があった
「全部ここからだ」
俺たちは黙って聞く
社長は少し笑った
「ただし」
そして珍しく柔らかい顔になる
「今日は喜べ」
会議室が少し和む
「今日くらいは」
「頑張った自分たちを褒めろ」
その言葉に誰も返事ができなかった
胸がいっぱいだったから
俺は奏を見る
奏も泣きそうな顔をしている
たぶん同じことを思っている
ここまで来られたのは自分一人じゃない
支えてくれた人がいた
信じてくれた人がいた
待っていてくれた人がいた
だから今ここにいる
社長が会議室を出て行く
黒瀬さんも続こうとして
ふと立ち止まった
振り返る
そして照れ臭そうに言った
「……おめでとう」
一瞬
会議室が静かになる
次の瞬間
蒼依が吹き出した
「黒瀬さんが素直!」
「うるさい!」
黒瀬さんが即座に怒鳴る
全員が笑った
奏も笑った
泣きながら
でも
確かに笑っていた
その顔を見た瞬間
俺は思う
大丈夫だ
もう大丈夫だ
これから先も
簡単な道じゃないだろう
失った時間は戻らない
傷も完全には消えない
それでも
俺たちはまた歩き出せる
四人で
同じ方向を向いて
そして
会議室の壁に掛かったグループ写真へ視線を向ける
デビュー当時の俺たち
若くて
無鉄砲で
夢だけを追いかけていた頃
あの頃は知らなかった
仲間を失いそうになる恐怖も
守りたいと思う気持ちも
こんな未来も
でも
だからこそ思う
この数か月は無駄じゃなかった
痛みも
涙も
全部
今日へ繋がっていた
俺は小さく笑った
そして心の中で呟く
――おかえり、奏
本当に
おかえり


