法廷内にはざわめきが広がっている
記者たちは慌ただしくメモを取り
何人かはすでにスマホで速報を送っている
でも
俺たちの周りだけ時間が止まったみたいだった
終わった
本当に
終わったんだ
二か月や三か月じゃない
報道が出てから今日まで
長い長い時間だった
俺は隣を見る
奏は泣いていた
声を上げるわけじゃない
ただ静かに
涙だけが止まらない
肩が小さく震えている
その姿を見た瞬間胸の奥が締め付けられた
俺は知っている
この数か月奏がどれだけ苦しんできたか
眠れなくなった夜
人を怖がるようになった日
病院で眠り続けていた時間
ステージ映像を見ながら泣いていたこと
活動再開後の歌番組を見て
病室で一人悔しそうにしていたこと
全部知っている
だからこの涙は今日だけの涙じゃない
何か月分もの涙だった
「奏……」
お母さんが震える声で呼ぶ
奏はゆっくり母親を見る
そして子どもみたいに泣いた
「母さん……」
声が震える
「俺……」
その先が続かない
何度も口を開こうとする
でも言葉にならない
代わりに涙が溢れる
お母さんも泣いていた
奏の手を握る
「頑張ったね」
ただその一言だった
でもその一言で奏はさらに泣いた
お父さんも隣で目を赤くしていた
普段はほとんど感情を見せない人なのに今日は違った
何度も頷いている
「よかったな」
小さな声
それだけだった
それだけで十分だった
裁判長が退廷する
法廷内が少しずつ動き始める
でも俺たちはまだ席を立てなかった
誰も急がない
急ぐ必要もなかった
社長が静かに奏の前へ来る
奏は慌てて立ち上がろうとした
でも社長は肩に手を置く
「座っていなさい」
優しい声だった
奏は再び腰を下ろす
社長はしばらく何も言わなかった
ただ奏を見ていた
そして静かに言う
「よく耐えたな」
その瞬間奏がまた泣いた
俺は初めて見たあの社長が目を潤ませているところを
社長もずっと戦ってくれていた
世間から叩かれてもスポンサーに頭を下げても記者会見で矢面に立っても
ずっと俺たちを守ってくれた
「君は悪くない」
社長は言う
「最初からな」
奏は声にならないまま頷いた
黒瀬さんも近づいてくる
そしていつもの黒瀬さんらしく
少し乱暴に奏の頭を撫でた
「泣きすぎだ馬鹿」
声が震えていた
奏が笑う
泣きながら笑う
その顔を見た瞬間
俺も限界だった
蒼依は完全に泣いていた
「よかったっす……」
鼻をすすりながら言う
優朔も目を伏せる
そして珍しく自分から奏の肩を叩いた
「終わったな」
短い言葉
優朔なりの精一杯だった
奏は何度も頷く
「うん……」
「終わった……」
法廷を出る
廊下にはすでに大勢の報道陣が集まっていた
でも以前とは空気が違った
向けられるカメラの意味が違う
浴びせられる言葉の意味が違う
「桜庭さん!」
「今のお気持ちは!」
「判決を受けてどう感じますか!」
たくさんの声が飛ぶ
奏は立ち止まる
少しだけ迷った
そしてマイクを向けられる
俺たちは見守る
奏は深呼吸した
まだ少し震えている
でもしっかり前を向いた
「……正直」
掠れた声
それでも
はっきり聞こえた
「まだ夢みたいです」
報道陣が静まる
「でも」
奏は続ける
「信じてくれた人たちに……」
涙が込み上げる
それでも
最後まで言った
「本当に感謝しています」
そして
深く頭を下げた
長く
長く
頭を下げた
フラッシュが光る
でも今度は怖くなかった
誰も下を向いていなかった
俺たちは歩き出す
法廷の外へ
青空が広がっていた
久しぶりに見る気がした
本当に
長かった
だけど
終わった
ようやく
俺たちは
未来の話をしていいんだ
記者たちは慌ただしくメモを取り
何人かはすでにスマホで速報を送っている
でも
俺たちの周りだけ時間が止まったみたいだった
終わった
本当に
終わったんだ
二か月や三か月じゃない
報道が出てから今日まで
長い長い時間だった
俺は隣を見る
奏は泣いていた
声を上げるわけじゃない
ただ静かに
涙だけが止まらない
肩が小さく震えている
その姿を見た瞬間胸の奥が締め付けられた
俺は知っている
この数か月奏がどれだけ苦しんできたか
眠れなくなった夜
人を怖がるようになった日
病院で眠り続けていた時間
ステージ映像を見ながら泣いていたこと
活動再開後の歌番組を見て
病室で一人悔しそうにしていたこと
全部知っている
だからこの涙は今日だけの涙じゃない
何か月分もの涙だった
「奏……」
お母さんが震える声で呼ぶ
奏はゆっくり母親を見る
そして子どもみたいに泣いた
「母さん……」
声が震える
「俺……」
その先が続かない
何度も口を開こうとする
でも言葉にならない
代わりに涙が溢れる
お母さんも泣いていた
奏の手を握る
「頑張ったね」
ただその一言だった
でもその一言で奏はさらに泣いた
お父さんも隣で目を赤くしていた
普段はほとんど感情を見せない人なのに今日は違った
何度も頷いている
「よかったな」
小さな声
それだけだった
それだけで十分だった
裁判長が退廷する
法廷内が少しずつ動き始める
でも俺たちはまだ席を立てなかった
誰も急がない
急ぐ必要もなかった
社長が静かに奏の前へ来る
奏は慌てて立ち上がろうとした
でも社長は肩に手を置く
「座っていなさい」
優しい声だった
奏は再び腰を下ろす
社長はしばらく何も言わなかった
ただ奏を見ていた
そして静かに言う
「よく耐えたな」
その瞬間奏がまた泣いた
俺は初めて見たあの社長が目を潤ませているところを
社長もずっと戦ってくれていた
世間から叩かれてもスポンサーに頭を下げても記者会見で矢面に立っても
ずっと俺たちを守ってくれた
「君は悪くない」
社長は言う
「最初からな」
奏は声にならないまま頷いた
黒瀬さんも近づいてくる
そしていつもの黒瀬さんらしく
少し乱暴に奏の頭を撫でた
「泣きすぎだ馬鹿」
声が震えていた
奏が笑う
泣きながら笑う
その顔を見た瞬間
俺も限界だった
蒼依は完全に泣いていた
「よかったっす……」
鼻をすすりながら言う
優朔も目を伏せる
そして珍しく自分から奏の肩を叩いた
「終わったな」
短い言葉
優朔なりの精一杯だった
奏は何度も頷く
「うん……」
「終わった……」
法廷を出る
廊下にはすでに大勢の報道陣が集まっていた
でも以前とは空気が違った
向けられるカメラの意味が違う
浴びせられる言葉の意味が違う
「桜庭さん!」
「今のお気持ちは!」
「判決を受けてどう感じますか!」
たくさんの声が飛ぶ
奏は立ち止まる
少しだけ迷った
そしてマイクを向けられる
俺たちは見守る
奏は深呼吸した
まだ少し震えている
でもしっかり前を向いた
「……正直」
掠れた声
それでも
はっきり聞こえた
「まだ夢みたいです」
報道陣が静まる
「でも」
奏は続ける
「信じてくれた人たちに……」
涙が込み上げる
それでも
最後まで言った
「本当に感謝しています」
そして
深く頭を下げた
長く
長く
頭を下げた
フラッシュが光る
でも今度は怖くなかった
誰も下を向いていなかった
俺たちは歩き出す
法廷の外へ
青空が広がっていた
久しぶりに見る気がした
本当に
長かった
だけど
終わった
ようやく
俺たちは
未来の話をしていいんだ


