ラジオ番組の収録を無事に終え、お世話になったスタッフの方々へ挨拶を済ませて、俺たちは次の現場へと足を速める
ふと窓の外に目をやると、空はすっかり茜色に染まっていた
朝から一歩も足を止めることなく、ただがむしゃらに走り続けている
情報番組の生放送、立て続けの雑誌取材、先ほどのラジオ、そしてこれからはテレビ局でのメイン収録
復帰初日とは到底思えないほどの過密スケジュールだった
身体の芯には、ずっしりとした疲労感がたまっている
けれど、そのハードさが不思議と嫌じゃなかった
むしろ、心地よさすら感じている自分がいる
息をつく暇もないほど、慌ただしく次から次へと舞い込んでくる仕事
それが、今の俺たちには何よりもありがたかった
そうでもしていなければ、余計な思考に心が支配されてしまうから
あの怒涛のような報道のこと
これから待ち受ける裁判のこと
容赦なく浴びせられる世間の声
そして——闘病を続ける、奏のこと
一度考え始めれば、底のない泥沼に沈んでいくような感覚に陥る
だからこそ、目の前の仕事だけに全神経を注ぎ込めるこの状況が、今の俺たちにとって唯一の救いだった
迎えの黒いワゴン車に滑り込む
次の局までは都内の渋滞を挟んで少しだけ時間に余裕があるらしい
慌ただしかった一日のなかで、珍しく車内にゆったりとした静寂が流れた
「今のうちに飯、腹に詰め込んどけ」
運転席の黒瀬さんがぶっきらぼうに言って、コンビニの袋を渡してくれる
俺たちはそれぞれ手近なものをつまみ上げた
おにぎり、サンドイッチ、少し伸びたパスタ、温かいホットスナック
お世辞にもトップアイドルらしいとは言えない、ジャンクな夕食
けれど、それが妙に愛おしく、懐かしかった
蒼依がおにぎりのパリッとした海苔の包装を剥きながら、ふっと目元を緩める
「なんか……本当に久しぶりっすね、こういうの」
その一言に、誰からともなく深く頷きが返った
蒼依が、おにぎりを持ちながら車内をぐるりと見渡した
「こうやって移動車の中でぎゅうぎゅうになって飯食ってさ」
「すぐ次の現場に向かって」
「寝る暇もないくらいに、スケジュールが真っ黒なやつ」
確かに、その通りだ
デビューを飾ってから、俺たちが当たり前のように消費してきた日常
当時は顔を合わせるたびに、誰もが文句ばかりを口にしていた
忙しすぎる、休みが欲しい、泥のように眠りたい
——そんな贅沢な不満ばかり
けれど、一度すべてを失いかけて、初めて思い知らされた
あの目が回るような忙しさが、どれほど贅沢で、幸せなことだったのかを
「2ヶ月前の俺なら、確実に『労働基準法どうなってんだ』ってキレてましたよ」
蒼依が自嘲気味に笑う
「今は?」
俺は口にサンドイッチを運びながら問いかけた
蒼依は少しだけ視線を落とし、噛み締めるように言った。
「今は……めちゃくちゃ嬉しいっす」
その言葉が車内に落ちた瞬間、ぴたりと空気が止まった
誰も声を上げて笑ったりはしない
言葉にせずとも、全員が痛いほど同じ想いを抱えていたからだ
優朔が手元で缶コーヒーを開ける
静かな車内に、プシュッという小気味いい音が響き渡った
「……忙しい方が、余計なこと考えなくていい」
ぽつりと溢れた、優朔らしい短い呟き
だけど、その一言に俺たちの本音がすべて凝縮されていた
ふと窓の外に目をやると、空はすっかり茜色に染まっていた
朝から一歩も足を止めることなく、ただがむしゃらに走り続けている
情報番組の生放送、立て続けの雑誌取材、先ほどのラジオ、そしてこれからはテレビ局でのメイン収録
復帰初日とは到底思えないほどの過密スケジュールだった
身体の芯には、ずっしりとした疲労感がたまっている
けれど、そのハードさが不思議と嫌じゃなかった
むしろ、心地よさすら感じている自分がいる
息をつく暇もないほど、慌ただしく次から次へと舞い込んでくる仕事
それが、今の俺たちには何よりもありがたかった
そうでもしていなければ、余計な思考に心が支配されてしまうから
あの怒涛のような報道のこと
これから待ち受ける裁判のこと
容赦なく浴びせられる世間の声
そして——闘病を続ける、奏のこと
一度考え始めれば、底のない泥沼に沈んでいくような感覚に陥る
だからこそ、目の前の仕事だけに全神経を注ぎ込めるこの状況が、今の俺たちにとって唯一の救いだった
迎えの黒いワゴン車に滑り込む
次の局までは都内の渋滞を挟んで少しだけ時間に余裕があるらしい
慌ただしかった一日のなかで、珍しく車内にゆったりとした静寂が流れた
「今のうちに飯、腹に詰め込んどけ」
運転席の黒瀬さんがぶっきらぼうに言って、コンビニの袋を渡してくれる
俺たちはそれぞれ手近なものをつまみ上げた
おにぎり、サンドイッチ、少し伸びたパスタ、温かいホットスナック
お世辞にもトップアイドルらしいとは言えない、ジャンクな夕食
けれど、それが妙に愛おしく、懐かしかった
蒼依がおにぎりのパリッとした海苔の包装を剥きながら、ふっと目元を緩める
「なんか……本当に久しぶりっすね、こういうの」
その一言に、誰からともなく深く頷きが返った
蒼依が、おにぎりを持ちながら車内をぐるりと見渡した
「こうやって移動車の中でぎゅうぎゅうになって飯食ってさ」
「すぐ次の現場に向かって」
「寝る暇もないくらいに、スケジュールが真っ黒なやつ」
確かに、その通りだ
デビューを飾ってから、俺たちが当たり前のように消費してきた日常
当時は顔を合わせるたびに、誰もが文句ばかりを口にしていた
忙しすぎる、休みが欲しい、泥のように眠りたい
——そんな贅沢な不満ばかり
けれど、一度すべてを失いかけて、初めて思い知らされた
あの目が回るような忙しさが、どれほど贅沢で、幸せなことだったのかを
「2ヶ月前の俺なら、確実に『労働基準法どうなってんだ』ってキレてましたよ」
蒼依が自嘲気味に笑う
「今は?」
俺は口にサンドイッチを運びながら問いかけた
蒼依は少しだけ視線を落とし、噛み締めるように言った。
「今は……めちゃくちゃ嬉しいっす」
その言葉が車内に落ちた瞬間、ぴたりと空気が止まった
誰も声を上げて笑ったりはしない
言葉にせずとも、全員が痛いほど同じ想いを抱えていたからだ
優朔が手元で缶コーヒーを開ける
静かな車内に、プシュッという小気味いい音が響き渡った
「……忙しい方が、余計なこと考えなくていい」
ぽつりと溢れた、優朔らしい短い呟き
だけど、その一言に俺たちの本音がすべて凝縮されていた


