それからしばらく奏は泣いていた
まるでこの二か月間溜め込んでいたものを全部吐き出すみたいに
お母さんがそっと背中をさする
音くんも隣に座る
俺たちは何も言わず見守った
それでよかった気がした
やがて涙が落ち着いた頃、看護師さんが病室へ入ってきた
「お薬の時間ですよ」
優しい声
奏は目元を擦りながら頷く
慣れた様子で薬を受け取る
薬の量は相変わらず多かった
錠剤
カプセル
頓服
見ているだけで胸が苦しくなる
奏は一つずつ飲み込んでいく
そして
しばらくすると目に見えて反応が出始めた
ぼんやりと焦点が合わなくなる
まぶたが重そうだ
「……眠い」
小さな声
お母さんが優しく髪を撫でる
「寝ていいわよ」
奏は頷いた
そしてベッドへ横になる
ほんの数分後には規則正しい寝息が聞こえてきた
眠っている顔は穏やかだった
それが少しだけ救いだった
するとお母さんが俺たちを見た
「少し……お話してもいいですか」
その声はどこか申し訳なさそうだった
俺たちは頷く
病室を出る
奏を起こさないよう静かに扉を閉めた
そして院内のカフェへ向かった
夜遅い時間だったけれど病院のカフェはまだ開いていた
窓際の席へ座る
お母さんはしばらく言葉を探していた
そして小さく頭を下げた
「ごめんなさい」
俺たちは顔を見合わせる
「え?」
思わず声が出る
お母さんは慌てて首を振った
「違うんです」
「謝りたいわけじゃなくて……」
言葉を選びながら続ける
「知っておいてほしくて」
その声は少し震えていた
お母さんはテーブルの上で手を握る
「今の奏なんですけど……」
そこで一度言葉が途切れた
「薬の副作用もあります」
「それと精神的な疲労も重なっていて」
「一日の半分くらいは眠っているんです」
俺たちは黙って聞いていた
「朝起きても」
「昼には眠ってしまうこともあります」
「ご飯を食べてまた眠って」
「夕方起きて」
「また夜眠る」
お母さんの声が少しずつ小さくなる
「起きている時間の方が少ない日もあります」
胸が痛んだ
あんなに元気だった奏が
ライブで誰より走り回っていた奏が
今は起きていることすら辛い状態なんだ
お母さんは続ける
「先生からも言われています」
「今は無理をさせないことが一番大事だと」
「少し良くなったと思っても」
「まだ心は追いついていないみたいで……」
そこまで言ってお母さんは目を伏せた
「だから」
「こんなこと言うの本当にごめんなさい」
声が震える
「せっかく前に進めそうなのに」
「みんな頑張ってくれているのに」
「奏だけ置いていかれるみたいで……」
涙が落ちる
お母さんは慌てて拭った
「でも」
「今は無理をさせたくないんです」
その言葉に誰もすぐには返事ができなかった
俺はゆっくり息を吐く
そして静かに言った
「当たり前です」
お母さんが顔を上げる
「今は奏の方が大事です」
「仕事よりも」
「会見よりも」
「全部」
自分でも驚くほど迷いはなかった
優朔も頷く
「僕たちも同じ考えです」
蒼依も続く
「むしろ休んでほしいっす」
「奏には」
その言葉を聞いた瞬間
お母さんの目からまた涙が溢れた
「ありがとうございます……」
震える声
俺は窓の外を見る
病院の灯りが静かに光っている
奏は今まだ戦っている
世間じゃない
裁判じゃない
自分自身と
だからこそ俺たちが焦るわけにはいかなかった
今はただ
奏がまた笑える日を待とう
そう心から思った
まるでこの二か月間溜め込んでいたものを全部吐き出すみたいに
お母さんがそっと背中をさする
音くんも隣に座る
俺たちは何も言わず見守った
それでよかった気がした
やがて涙が落ち着いた頃、看護師さんが病室へ入ってきた
「お薬の時間ですよ」
優しい声
奏は目元を擦りながら頷く
慣れた様子で薬を受け取る
薬の量は相変わらず多かった
錠剤
カプセル
頓服
見ているだけで胸が苦しくなる
奏は一つずつ飲み込んでいく
そして
しばらくすると目に見えて反応が出始めた
ぼんやりと焦点が合わなくなる
まぶたが重そうだ
「……眠い」
小さな声
お母さんが優しく髪を撫でる
「寝ていいわよ」
奏は頷いた
そしてベッドへ横になる
ほんの数分後には規則正しい寝息が聞こえてきた
眠っている顔は穏やかだった
それが少しだけ救いだった
するとお母さんが俺たちを見た
「少し……お話してもいいですか」
その声はどこか申し訳なさそうだった
俺たちは頷く
病室を出る
奏を起こさないよう静かに扉を閉めた
そして院内のカフェへ向かった
夜遅い時間だったけれど病院のカフェはまだ開いていた
窓際の席へ座る
お母さんはしばらく言葉を探していた
そして小さく頭を下げた
「ごめんなさい」
俺たちは顔を見合わせる
「え?」
思わず声が出る
お母さんは慌てて首を振った
「違うんです」
「謝りたいわけじゃなくて……」
言葉を選びながら続ける
「知っておいてほしくて」
その声は少し震えていた
お母さんはテーブルの上で手を握る
「今の奏なんですけど……」
そこで一度言葉が途切れた
「薬の副作用もあります」
「それと精神的な疲労も重なっていて」
「一日の半分くらいは眠っているんです」
俺たちは黙って聞いていた
「朝起きても」
「昼には眠ってしまうこともあります」
「ご飯を食べてまた眠って」
「夕方起きて」
「また夜眠る」
お母さんの声が少しずつ小さくなる
「起きている時間の方が少ない日もあります」
胸が痛んだ
あんなに元気だった奏が
ライブで誰より走り回っていた奏が
今は起きていることすら辛い状態なんだ
お母さんは続ける
「先生からも言われています」
「今は無理をさせないことが一番大事だと」
「少し良くなったと思っても」
「まだ心は追いついていないみたいで……」
そこまで言ってお母さんは目を伏せた
「だから」
「こんなこと言うの本当にごめんなさい」
声が震える
「せっかく前に進めそうなのに」
「みんな頑張ってくれているのに」
「奏だけ置いていかれるみたいで……」
涙が落ちる
お母さんは慌てて拭った
「でも」
「今は無理をさせたくないんです」
その言葉に誰もすぐには返事ができなかった
俺はゆっくり息を吐く
そして静かに言った
「当たり前です」
お母さんが顔を上げる
「今は奏の方が大事です」
「仕事よりも」
「会見よりも」
「全部」
自分でも驚くほど迷いはなかった
優朔も頷く
「僕たちも同じ考えです」
蒼依も続く
「むしろ休んでほしいっす」
「奏には」
その言葉を聞いた瞬間
お母さんの目からまた涙が溢れた
「ありがとうございます……」
震える声
俺は窓の外を見る
病院の灯りが静かに光っている
奏は今まだ戦っている
世間じゃない
裁判じゃない
自分自身と
だからこそ俺たちが焦るわけにはいかなかった
今はただ
奏がまた笑える日を待とう
そう心から思った


