トップアイドルは白衣の天使に恋をする-Rebirth-

病院に着いた頃には外はすっかり夕方になっていた。

病室の前まで来る。

自然と足が少し速くなる。

早く伝えたかった。今日のことを。

ようやく見えてきた希望を。

コンコン。

扉をノックする。

「どうぞ」

中から聞こえてきたのは奏のお母さんの声だった。

病室へ入るとソファには奏のお父さん、お母さん、音くんが座っていた。

そして窓際のベッドに座る奏がこちらを見た。

以前より顔色は良くなっている。

頬にも少しだけ色が戻っていた。

それでもまだ細く、弱々しい。

二か月前の奏とは別人みたいだった。

「来てくれたんすね」

少しだけ笑う。

いつもの奏ならもっと「また来たんすか〜」とか軽口を叩くはずなのに。

その笑顔が逆に胸を締め付ける。

「当たり前だろ」

俺は椅子へ腰掛けた。

優朔と蒼依も近くへ座る。

お母さんも俺たちの様子を見ていた。

そして俺はゆっくり口を開く。

「今日、事務所に呼ばれた」

奏の表情が少し変わる。

真剣な顔。

俺は続けた。

「証拠が揃ったんだ」

病室が静まり返る。

奏が息を呑むのが分かった。

俺は今日の会議の内容を話した。

録音、送金記録、証言、法務部、弁護士チーム。

社長の言葉。

全部。

一つずつ丁寧に話していく。

途中からお母さんが口元を押さえていた。

涙を堪えている。

でも話が進むにつれてとうとう我慢できなくなったらしい。

ぽろり。涙が零れ落ちた。

「よかった……」

震える声。

「本当によかった……」

奏のお母さんは泣いていた。

何度も。何度も頷きながら。

この二か月。きっと奏のお母さんも相当苦しかったと思う。

自分の息子が壊れていく姿を見ながら。

何もできない日もあったはずだ。

だからその涙は当然だった。

音くんも目を真っ赤にしていた。

お父さんも俯いている。

家族全員がずっと耐えてきた。

そして奏だけは何も言わなかった。

静かに聞いていた。

ただ黙って俺たちの話を聞いていた。

やがて全部話し終わる。

病室が静かになる。

しばらく沈黙が続いた。

奏は俯いていた。

握り締めた手が少し震えている。

ぽつりと呟いた。

「……そっか」

小さな声だった。

それからゆっくり顔を上げる。

目は赤かった。

でも泣いてはいなかった。

奏は俺たちを見る。

そして申し訳なさそうに笑った。

「3人に会見任せて……」

声が少し震える。

「ごめんなさい」

その瞬間蒼依が立ち上がった。

「は?」

珍しく低い声だった。

奏が驚いて目を瞬く。

蒼依は泣きそうな顔をしている。

「なんで謝るの」

「え……」

「謝るの俺たちの方だから」

蒼依の声が震えていた。

「奏がこんなんなってんのに」

「俺は何もできなかった」

病室が静まり返る。

優朔も静かに頷いた。

「蒼依の言う通りだ」

「謝る必要なんてない」

そして俺も言った。

「お前が謝ることなんて一つもない」

奏の目が揺れる。

俺は真っ直ぐ奏を見た。

「俺たちは仲間だろ」

「だから戦ってる」

「当たり前のことしてるだけだ」

その瞬間、奏の唇が震えた。

何か言おうとして。

でも言葉にならない。

代わりに。大粒の涙が零れ落ちた。

ぽろぽろと。

止まらない。

奏は顔を覆った。

肩が震える。

声を殺して泣いている。

その姿を見ながら俺は初めて思った。

ようやく。少しだけ。

奏の心にも希望が届いたのかもしれない、と。