トップアイドルは白衣の天使に恋をする-Rebirth-

その日の午後

事務所は慌ただしかった

会議室を出ても、廊下を歩いていても、電話の音が鳴り止まない

法務部、広報部、マネージャー室

社員たちが慌ただしく行き来している

二か月前までは当たり前だったこの光景が少し懐かしく感じた

報道、謝罪、会見

その間ずっと事務所全体が重苦しい空気に包まれていたから

でも今日は違う

忙しいのは同じだ

むしろ今まで以上かもしれない

それでもみんな前を向いている

そんな空気だった

「陽貴」

振り返る

黒瀬さんだった

「これ持っていけ」

渡されたのは分厚い資料

思わず顔が引きつる

「まだあるんですか」

「ある」

蒼依が後ろで笑う

「陽貴さん終わったっすね〜」

「お前もだからな」

「マジか……」

蒼依の顔が一瞬で曇る

優朔が珍しく小さく笑った

そんなやり取りができることすら久しぶりだった

ここ最近は笑う余裕なんてなかったから

会議室へ戻る

資料には今後の対応方針

想定質問

スポンサーへの説明内容

今後発表予定の資料

様々なものがまとめられていた

俺たちは黙々と目を通す

そして気付く

会社は本気だ…本当に

全力で戦うつもりなんだ

途中、社長が会議室へ入ってきた

自然と全員の背筋が伸びる

社長は俺たちを見る

「体調はどうだい」

仕事の話じゃない

まずそれだった

俺たちは少し驚く

「大丈夫です」

そう答えると社長は静かに頷いた

「無理はするな」

「君たちはこの二か月十分頑張った」

その言葉に少しだけ胸が熱くなる

社長は続けた

「これから忙しくなる」

「でも覚えておいてほしい」

そして真っ直ぐ俺たちを見る

「君たちが証明する必要はない」

会議室が静かになる

「君たちは何も悪くない」

「だから堂々としていなさい」

その言葉は不思議だった

たったそれだけなのに肩の力が抜けた気がした

俺たちはずっと戦っていた

説明して否定して信じてもらおうとして

でも本来

無実の人間が必死に証明し続けること自体がおかしいのかもしれない

社長は静かに言った

「証明するのは我々の仕事だ」

「君たちは前を向いていなさい」

その言葉を聞いた時

初めて本当に守られている気がした

社長が去った後しばらく誰も喋らなかった

やがて蒼依がぽつりと言う

「……なんか」

「俺この事務所入ってよかったす」

優朔が小さく笑う

「今さら?」

「社長がいるってこんなにも心強いんすね」

蒼依は頭を掻く

思わず俺も笑ってしまう

確かにそうだった

あの人はただ会社を守ろうとしているんじゃない

俺たちを守ろうとしてくれている

それが心から伝わってくる