メニューを開く
梓の視線は、まるでカルテの重要項目でも睨みつけるかのように真剣そのものだった
お肉を前にした彼女の集中力は、いつだって本当に凄まじい。
「ねえ、何から頼む?」
「タン」
食い気味の即答だった
「ちょっと待って、まだメニューを開いて10秒しか経ってないよ?」
「私の中でタンはファーストチョイスって決まってるから」
私は思わず苦笑する
結局、定番のものから少し珍しい部位まで、あれこれと賑やかに注文を済ませた
しばらくすると、綺麗にサシの入ったお肉たちが次々と運ばれてくる
熱せられた網の上へ、トングで手際よく並べていく
小気味いいジュッという音が店内に響き、一瞬にして香ばしい煙が立ち上った
お肉の焼ける匂い、ただそれだけで張り詰めていた心がじんわりと幸せな気持ちで満たされていく
「いただきます」二人で声を合わせて、待ち兼ねたように箸を動かし始めた
香ばしく焼けたお肉を、一口で口へと運ぶ
ジューシーな旨味が広がって、美味しい
本当に、身体の隅々にまで染み渡るように美味しい。
「……やばい」
梓が至福の表情でそっと目を閉じる
「生き返る……」
「それ、今日の昼休憩の時も全く同じこと言ってたよ?」
「今度こそ、細胞レベルで本当に生き返ったの」
その大げさな表現に、私は声を立てて笑う
それからのしばらくの間、私たちのテーブルは完全に無言になった
ただひたすらに、目の前のお肉を網に載せ、焼き、口へと運ぶ
極限まで体力を消耗した日の看護師たちの食事は大体こうなる
中身のある会話を交わすより前に、まずは何よりも飢えた身体への栄養補給
それが最優先事項なのだ
ある程度お腹が満たされ、冷たいお茶で喉を潤した頃。ようやく胃袋が落ち着き、私たちはいつものトーンでぽつりぽつりと話し始めた
「……でも、奏くん、少し安心したね」
網の上のカルビを見つめながら、梓がそっと優しい声で言った
私は手元の箸を置き、深く頷く
「うん、本当にね……」
触れれば燃えそうなほどの高熱、重度の脱水、そして過呼吸を伴う激しいパニック症状
精神的にも、肉体的にも、奏でくんの身体は完全に限界を迎えていたはずだ
それを取り巻く今の状況を思えば、今の奏くんはずっと良い方向へ向かっている
「優朔からこっそり聞いたんだけどさ」
梓がトングを動かしながら話を続ける
「最近は病院のご飯も、残さずちゃんと食べてるらしいよ」
「あ、そうなんだ。よかった……」
「うん」
その知らせを聞くだけで、胸の奥の支えが少しだけ軽くなる
人間、自分の力で「食べられる」ということは何よりも大きい
それは身体が、そして心が、もう一度前を向いて回復しようとしている何よりの証拠だからだ。
「……優朔もね、奏くんの食欲が戻ってきたって、珍しく少しだけ安心した顔してた」
「そっか、本当に良かったね」
私はそう微笑んで答える
今回の騒動のなかで本当に大変だったのは、今この瞬間も誰よりも過酷な戦いを強いられているのは、きっと陽貴くんたちの方だ
顔も見えない世間から理不尽に叩かれて、それでも大切な仲間を守ろうと必死に盾になって、前を向いて
その泥臭くて、あまりにも傷だらけな姿を、私は誰よりも近くでずっと見つめてきた
梓の視線は、まるでカルテの重要項目でも睨みつけるかのように真剣そのものだった
お肉を前にした彼女の集中力は、いつだって本当に凄まじい。
「ねえ、何から頼む?」
「タン」
食い気味の即答だった
「ちょっと待って、まだメニューを開いて10秒しか経ってないよ?」
「私の中でタンはファーストチョイスって決まってるから」
私は思わず苦笑する
結局、定番のものから少し珍しい部位まで、あれこれと賑やかに注文を済ませた
しばらくすると、綺麗にサシの入ったお肉たちが次々と運ばれてくる
熱せられた網の上へ、トングで手際よく並べていく
小気味いいジュッという音が店内に響き、一瞬にして香ばしい煙が立ち上った
お肉の焼ける匂い、ただそれだけで張り詰めていた心がじんわりと幸せな気持ちで満たされていく
「いただきます」二人で声を合わせて、待ち兼ねたように箸を動かし始めた
香ばしく焼けたお肉を、一口で口へと運ぶ
ジューシーな旨味が広がって、美味しい
本当に、身体の隅々にまで染み渡るように美味しい。
「……やばい」
梓が至福の表情でそっと目を閉じる
「生き返る……」
「それ、今日の昼休憩の時も全く同じこと言ってたよ?」
「今度こそ、細胞レベルで本当に生き返ったの」
その大げさな表現に、私は声を立てて笑う
それからのしばらくの間、私たちのテーブルは完全に無言になった
ただひたすらに、目の前のお肉を網に載せ、焼き、口へと運ぶ
極限まで体力を消耗した日の看護師たちの食事は大体こうなる
中身のある会話を交わすより前に、まずは何よりも飢えた身体への栄養補給
それが最優先事項なのだ
ある程度お腹が満たされ、冷たいお茶で喉を潤した頃。ようやく胃袋が落ち着き、私たちはいつものトーンでぽつりぽつりと話し始めた
「……でも、奏くん、少し安心したね」
網の上のカルビを見つめながら、梓がそっと優しい声で言った
私は手元の箸を置き、深く頷く
「うん、本当にね……」
触れれば燃えそうなほどの高熱、重度の脱水、そして過呼吸を伴う激しいパニック症状
精神的にも、肉体的にも、奏でくんの身体は完全に限界を迎えていたはずだ
それを取り巻く今の状況を思えば、今の奏くんはずっと良い方向へ向かっている
「優朔からこっそり聞いたんだけどさ」
梓がトングを動かしながら話を続ける
「最近は病院のご飯も、残さずちゃんと食べてるらしいよ」
「あ、そうなんだ。よかった……」
「うん」
その知らせを聞くだけで、胸の奥の支えが少しだけ軽くなる
人間、自分の力で「食べられる」ということは何よりも大きい
それは身体が、そして心が、もう一度前を向いて回復しようとしている何よりの証拠だからだ。
「……優朔もね、奏くんの食欲が戻ってきたって、珍しく少しだけ安心した顔してた」
「そっか、本当に良かったね」
私はそう微笑んで答える
今回の騒動のなかで本当に大変だったのは、今この瞬間も誰よりも過酷な戦いを強いられているのは、きっと陽貴くんたちの方だ
顔も見えない世間から理不尽に叩かれて、それでも大切な仲間を守ろうと必死に盾になって、前を向いて
その泥臭くて、あまりにも傷だらけな姿を、私は誰よりも近くでずっと見つめてきた


