原先生は奏の寝顔を一度見てから、俺たちへ向き直った
「まず結論からお話しします」
部屋の空気が張り詰める
お母さんがお父さんの手を握った
音くんも不安そうな顔をしている
先生は落ち着いた声で続けた
「命に関わるような重篤な病気は見つかっていません」
その言葉に全員がほっと息を吐いた
お母さんは胸に手を当てる
「よかった……」
涙声だった
先生は頷く
「ただし」
その一言で再び空気が引き締まる
先生は検査結果の紙を見ながら説明を始めた
「まず脱水です」
「かなり進行しています」
俺は思わず奏を見る
確かにここ数日まともに食べている姿を見ていない
先生は続ける
「採血結果から見ても、かなり水分摂取量が落ちていたことが分かります」
「本人は自覚していなかったかもしれませんが、身体はかなり危険な状態でした」
お父さんが顔を曇らせる
「そんなに……」
「はい」
先生は頷いた
「あと数日続いていれば腎機能にも影響が出ていた可能性があります」
誰も言葉を発さない
そんな状態だったのか
俺たちはずっと精神面ばかり見ていた
でも身体も限界だったんだ
先生はさらに続ける
「そして栄養状態です」
「こちらもかなり悪い」
「食事量が大幅に減っていますね」
俺は思い出す
実家へ迎えに行った時の奏の顔
頬が痩けていた
服も少し大きく見えた
先生が資料をめくる
「急激な体重減少があります」
「おそらくこの数週間ほとんど食べられていません」
お母さんが俯いた
「食べなさいって言っても……」
声が震える
「大丈夫だからって笑うんです」
「でも全然食べなくて……」
先生は優しく頷いた
責めることはしない
「よくある反応です」
「強いストレス状態になると食欲は簡単に落ちます」
そして先生は少しだけ表情を変えた
ここからが本題なのだと分かった
「それから」
静かな声
「精神面についてです」
部屋がさらに静かになる
先生は言葉を選びながら続けた
「現在の桜庭さんは非常に強いストレス状態にあります」
「そして」
少し間を置く
「パニック障害を発症しています」
その言葉に誰も動かなかった
パニック障害
聞いたことはある
でも実際に身近な人が診断されると重みが違った
お母さんが不安そうに聞く
「治るんでしょうか……」
先生はすぐに答えた
「すぐには治りませんですが適切な治療を継続することになって治る可能性もあります」
はっきりと言った
少し安心したようにお母さんが涙を拭う
先生は続ける
「先日の過呼吸」
「突然の強い不安」
「動悸」
「極度の恐怖感」
「これらは典型的なパニック発作です」
俺は思い出す
あの日
ニュースを見た奏
呼吸ができなくなって
震えて
泣いて
助けを求めていた
あれは
ただ取り乱していたんじゃなかった
病気だったんだ
先生は穏やかに話す
「本人の心が弱いわけではありません」
「精神的に弱い人だからなる病気でもありません」
その言葉に俺は少し救われた気がした
先生は奏を見る
「むしろ頑張りすぎた結果です」
「限界まで耐え続けた結果」
「心と身体が悲鳴を上げている状態です」
お父さんが目を閉じる
音くんも俯いていた
先生は続ける
「今後は精神科と心療内科の先生にも入ってもらいます」
「必要であれば薬も使います」
「ただ」
先生が少し笑う
「今の彼に一番必要なのは安心して眠ることです」
俺たちは黙って聞いていた
先生は病室を見渡す
家族
俺たち
みんなを見て言った
「幸いなことに」
「桜庭さんの周りには支えてくれる人がたくさんいます」
その言葉に俺は奏を見る
ベッドで静かに眠っている
今は何も知らない
でも本当にそうだ
両親がいる
音くんがいる
俺たちがいる
社長もいる
黒瀬さんもいる
そして信じてくれる人もいる
先生は最後に言った
「時間はかかると思います」
「でも大丈夫です」
「きちんと休めば必ず回復します」
その言葉を聞いて俺は初めて心の底から安心した
まだ問題は何一つ解決していない
記事も
動画も
真実も
何も終わっていない
それでも
少なくとも奏は助かる
ちゃんと治療できる
その事実だけで
今は十分だった
「まず結論からお話しします」
部屋の空気が張り詰める
お母さんがお父さんの手を握った
音くんも不安そうな顔をしている
先生は落ち着いた声で続けた
「命に関わるような重篤な病気は見つかっていません」
その言葉に全員がほっと息を吐いた
お母さんは胸に手を当てる
「よかった……」
涙声だった
先生は頷く
「ただし」
その一言で再び空気が引き締まる
先生は検査結果の紙を見ながら説明を始めた
「まず脱水です」
「かなり進行しています」
俺は思わず奏を見る
確かにここ数日まともに食べている姿を見ていない
先生は続ける
「採血結果から見ても、かなり水分摂取量が落ちていたことが分かります」
「本人は自覚していなかったかもしれませんが、身体はかなり危険な状態でした」
お父さんが顔を曇らせる
「そんなに……」
「はい」
先生は頷いた
「あと数日続いていれば腎機能にも影響が出ていた可能性があります」
誰も言葉を発さない
そんな状態だったのか
俺たちはずっと精神面ばかり見ていた
でも身体も限界だったんだ
先生はさらに続ける
「そして栄養状態です」
「こちらもかなり悪い」
「食事量が大幅に減っていますね」
俺は思い出す
実家へ迎えに行った時の奏の顔
頬が痩けていた
服も少し大きく見えた
先生が資料をめくる
「急激な体重減少があります」
「おそらくこの数週間ほとんど食べられていません」
お母さんが俯いた
「食べなさいって言っても……」
声が震える
「大丈夫だからって笑うんです」
「でも全然食べなくて……」
先生は優しく頷いた
責めることはしない
「よくある反応です」
「強いストレス状態になると食欲は簡単に落ちます」
そして先生は少しだけ表情を変えた
ここからが本題なのだと分かった
「それから」
静かな声
「精神面についてです」
部屋がさらに静かになる
先生は言葉を選びながら続けた
「現在の桜庭さんは非常に強いストレス状態にあります」
「そして」
少し間を置く
「パニック障害を発症しています」
その言葉に誰も動かなかった
パニック障害
聞いたことはある
でも実際に身近な人が診断されると重みが違った
お母さんが不安そうに聞く
「治るんでしょうか……」
先生はすぐに答えた
「すぐには治りませんですが適切な治療を継続することになって治る可能性もあります」
はっきりと言った
少し安心したようにお母さんが涙を拭う
先生は続ける
「先日の過呼吸」
「突然の強い不安」
「動悸」
「極度の恐怖感」
「これらは典型的なパニック発作です」
俺は思い出す
あの日
ニュースを見た奏
呼吸ができなくなって
震えて
泣いて
助けを求めていた
あれは
ただ取り乱していたんじゃなかった
病気だったんだ
先生は穏やかに話す
「本人の心が弱いわけではありません」
「精神的に弱い人だからなる病気でもありません」
その言葉に俺は少し救われた気がした
先生は奏を見る
「むしろ頑張りすぎた結果です」
「限界まで耐え続けた結果」
「心と身体が悲鳴を上げている状態です」
お父さんが目を閉じる
音くんも俯いていた
先生は続ける
「今後は精神科と心療内科の先生にも入ってもらいます」
「必要であれば薬も使います」
「ただ」
先生が少し笑う
「今の彼に一番必要なのは安心して眠ることです」
俺たちは黙って聞いていた
先生は病室を見渡す
家族
俺たち
みんなを見て言った
「幸いなことに」
「桜庭さんの周りには支えてくれる人がたくさんいます」
その言葉に俺は奏を見る
ベッドで静かに眠っている
今は何も知らない
でも本当にそうだ
両親がいる
音くんがいる
俺たちがいる
社長もいる
黒瀬さんもいる
そして信じてくれる人もいる
先生は最後に言った
「時間はかかると思います」
「でも大丈夫です」
「きちんと休めば必ず回復します」
その言葉を聞いて俺は初めて心の底から安心した
まだ問題は何一つ解決していない
記事も
動画も
真実も
何も終わっていない
それでも
少なくとも奏は助かる
ちゃんと治療できる
その事実だけで
今は十分だった


