トップアイドルは白衣の天使に恋をする-Rebirth-

「ごめん……」 

気づけば、俺の口からそんな言葉が零れ落ちていた

不意の謝罪に、奏が驚いたように顔を上げる

赤く腫れ上がった、痛々しいその瞳

その顔を見るだけで、胸の奥が引き裂かれるように痛んだ

「こんなに辛い時に……」

情けないくらいに、声が激しく震える

「……お前を、何一つ支えてやれなくてごめん」

俺は『黒騎士』のリーダーだ

どんなときもメンバーを守り、支え、背中を押す

ずっとそうやって、このグループを引っ張ってきた自負があった

でも、今回だけは完全に違った

奏がどれほどの生き地獄の中で苦しんでいるのかを知りながら、結局、俺は何一つできていない

ただ、自宅待機という大人の命令に従って、あいつが壊れていくのを隣で黙って見ているだけだった

リーダーらしいことなんて何一つできていない自分が、情けなくて仕方がなかった

視界がみるみるうちに滲んでいく

一度溢れ出した涙は、もう止まる気配がなかった

奏の前で、メンバーの前でこんな風に声を詰まらせて泣くなんて、一体いつ以来だろう

「陽貴、さん……」

奏が、掠れた声で小さく俺の名前を呼ぶ

でも、俺は大きく首を横に振った

「違う、お前が謝ることなんか何一つない。
……俺たちがもっと早くお前の異変に気づいてたら」

「もっと早くここに来てたら……お前、こんなになるまでたった一人で絶望を抱え込まずに済んだだろ」

言葉が喉の奥につかえて、胸が苦しい

ふと隣を見ると、あの鉄のポーカーフェイスを誇る優朔も、静かに涙を流していた

涙を拭おうともせず、ただ真っ直ぐに奏を見つめている

「……ごめんな」

低く、掠れた声

「奏一人を、あんな悍ましい戦場に立たせて戦わせた。
俺たち、血の繋がらないけど家族みたいな仲間のはずなのにな」

いつも冷静な優朔からは想像もつかない、ひどく弱々しい声だった

その横で、蒼依も深く俯いたまま、両肩を激しく震わせていた

「俺もっす……っ」

完全に崩れた涙声

「奏がどれだけしんどいか、誰よりも分かってたはずなのに
……結局何もできなかった……っ。本当にごめん、奏」

誰も、顔を上げることができなかった

傷付いた奏も、自分たちの無力さに打ちのめされた俺たちも、ただ、廊下で子供のように涙を流し続けることしかできなかった

家の中に、俺たちの悲痛な嗚咽だけがどこまでも重苦しく響き渡る。

誰も喋らない、喋れない、永遠のような長い沈黙

ただ、冷徹に時間だけが流れていく

俺は床を見つめながら、ふと、脳裏に浮かんではいけない最悪の思考がよぎってしまった

……もう、奏をすべてから解放してやった方が、奏のためなんじゃないか

重すぎる『黒騎士』という看板からも

この薄汚い芸能界からも

何もかも、すべてから

奏がこれ以上傷付かなくていい、何も背負わなくていい静かな場所へ、行かせてやった方が、奏にとっては幸せなんじゃないか

そんな弱気な考えが頭を過る

だけど、その考えを自分の中で認めてしまった瞬間、俺たちの『黒騎士』は本当に終わる

これまで4人で命を懸けて追いかけてきた夢も、奏がすべてを犠牲にして掴み取ったステージも、全部が砂の城のように崩れ去ってしまう

そんなことは、痛いほど分かっている

分かっているのに——

目の前で抜け殻のように壊れかけている奏を見つめていると、何が本当の正解なのか、俺にはもう何も分からなくなっていた