「違う」
俺は言う
即座に、全力でその絶望を否定しようとした
でも、奏の耳には俺の声なんて届いていなかった
「……動画、見ちゃったんだよね」
震える声
「コメントもさ。何万件も、何十万件も……」
奏はふっと笑った
今にも粉々に砕け散ってしまいそうな、壊れかけた笑みだった
「人殺しみたいに言われてたよ。
最低のクズだって。この世から消えろって。
……死ね、ってさ」
俺は鋭く息を呑んだ
奏は全部、目にしてしまったんだ
スマートフォンから溢れ出す、見なくていい悍ましい悪意の底なし沼を。一人きりで、全部。
「最初はさ……」
奏が血を吐き出すように言葉を続ける
「絶対に違うって思ってた。僕は何もやってない、そのうちみんな分かってくれる、証拠だっていつか出るかもしれないって、そうやって自分に言い聞かせてたんだ」
そこで一度言葉が詰まり、堰を切ったようにぽろぽろと大粒の涙が落ちた
「でもさ……っ」
掠れた声が、廊下の静寂を痛々しく切り裂く
「何万人、何十万人もの見知らぬ人たちから、毎分毎秒『お前が悪い』って言われ続けるとさ」
「だんだん、自分でも分かんなくなっちゃうんだよ」
その言葉の重みに、俺たち3人は、誰も何も言えなくなってしまった
「本当に、俺は悪くないのかなって。自分が気づいていないだけで、実は一番俺が悪かったんじゃないのかなって」
「俺この世界に生きてるだけで、みんなに迷惑をかけてるんじゃないかって」
聞いていて、苦しかった
あまりにも苦しすぎて、胸が焼け付きそうだった
奏は優しいんだ
優しすぎる
だから、他人の悪意をそのまま真に受けて、全部自分のせいにしてしまう
他人の放った言葉の刃で、誰より先に自分自身の心をズタズタに傷つけてしまう
「母さん、ずっと泣いてた……」
奏は自分の細い両肩を抱きしめるようにして言った
「お 父さんも、音も……」
ガタガタと激しく震え始める背中
「俺せいで…俺のせいで、みんなずっと泣いてるんだ」
そしてついに、奏は両手で自分の顔を覆い隠してしまった
「もう嫌なんだよ……っ!」
激しい嗚咽が混じる
「もう、これ以上誰も傷付いてほしくない……!
黒騎士も、家族も、ファンのみんなも……!」
そこで、奏は顔を覆っていた手を離し、俺たちの顔を真っ直ぐに見据えた
泣き腫らした真っ赤な目
ぐしゃぐしゃになった顔
極限の絶望に晒され、今にも完全に壊れてしまいそうな表情
「……俺がいなくなれば、全部終わるだろ?」
その言葉が鼓膜に届いた瞬間、俺の心臓は冷たく、完全に止まりそうになった
優朔も、蒼依も、恐怖に顔を白くさせて全く同じ表情をしていた
今の奏は、綺麗事の愚痴を言っているんじゃない
本気でそう思っている
自分がこの世界から消え去れば、すべてが解決するのだと、狂った暗闇の中で本気で信じ込まされてしまっているんだ
それが、何よりも恐ろしく、何よりも危険なことだった
奏は力なく、悲しげに微笑む
「ごめんなさい……。
最後まで、みんなに迷惑かけて」
そして、ふらりと虚ろに視線を落とした
その佇まいは、まるで逃げ場のない真っ暗な崖の最果てに、たった一人で立たされている人間そのものだった
あと一歩
ほんの少しでも何かを間違えれば、本当に二度と取り返しのつかない遠いところへ行ってしまいそうで。
俺は全身の血が凍りつくような戦慄を覚えていた
だから、今は。法律だとか、証拠だとか、そんな大人の事情なんてどうでもいい
何より先に、この壊れかけて崖から落ちそうな奏を、今すぐ力づくでもこちら側へと引き戻さなきゃいけないんだ
仲間として。友達として。血の繋がらない、本当の家族として
——絶対に、お前をあちら側へ行かせやしない。
俺は言う
即座に、全力でその絶望を否定しようとした
でも、奏の耳には俺の声なんて届いていなかった
「……動画、見ちゃったんだよね」
震える声
「コメントもさ。何万件も、何十万件も……」
奏はふっと笑った
今にも粉々に砕け散ってしまいそうな、壊れかけた笑みだった
「人殺しみたいに言われてたよ。
最低のクズだって。この世から消えろって。
……死ね、ってさ」
俺は鋭く息を呑んだ
奏は全部、目にしてしまったんだ
スマートフォンから溢れ出す、見なくていい悍ましい悪意の底なし沼を。一人きりで、全部。
「最初はさ……」
奏が血を吐き出すように言葉を続ける
「絶対に違うって思ってた。僕は何もやってない、そのうちみんな分かってくれる、証拠だっていつか出るかもしれないって、そうやって自分に言い聞かせてたんだ」
そこで一度言葉が詰まり、堰を切ったようにぽろぽろと大粒の涙が落ちた
「でもさ……っ」
掠れた声が、廊下の静寂を痛々しく切り裂く
「何万人、何十万人もの見知らぬ人たちから、毎分毎秒『お前が悪い』って言われ続けるとさ」
「だんだん、自分でも分かんなくなっちゃうんだよ」
その言葉の重みに、俺たち3人は、誰も何も言えなくなってしまった
「本当に、俺は悪くないのかなって。自分が気づいていないだけで、実は一番俺が悪かったんじゃないのかなって」
「俺この世界に生きてるだけで、みんなに迷惑をかけてるんじゃないかって」
聞いていて、苦しかった
あまりにも苦しすぎて、胸が焼け付きそうだった
奏は優しいんだ
優しすぎる
だから、他人の悪意をそのまま真に受けて、全部自分のせいにしてしまう
他人の放った言葉の刃で、誰より先に自分自身の心をズタズタに傷つけてしまう
「母さん、ずっと泣いてた……」
奏は自分の細い両肩を抱きしめるようにして言った
「お 父さんも、音も……」
ガタガタと激しく震え始める背中
「俺せいで…俺のせいで、みんなずっと泣いてるんだ」
そしてついに、奏は両手で自分の顔を覆い隠してしまった
「もう嫌なんだよ……っ!」
激しい嗚咽が混じる
「もう、これ以上誰も傷付いてほしくない……!
黒騎士も、家族も、ファンのみんなも……!」
そこで、奏は顔を覆っていた手を離し、俺たちの顔を真っ直ぐに見据えた
泣き腫らした真っ赤な目
ぐしゃぐしゃになった顔
極限の絶望に晒され、今にも完全に壊れてしまいそうな表情
「……俺がいなくなれば、全部終わるだろ?」
その言葉が鼓膜に届いた瞬間、俺の心臓は冷たく、完全に止まりそうになった
優朔も、蒼依も、恐怖に顔を白くさせて全く同じ表情をしていた
今の奏は、綺麗事の愚痴を言っているんじゃない
本気でそう思っている
自分がこの世界から消え去れば、すべてが解決するのだと、狂った暗闇の中で本気で信じ込まされてしまっているんだ
それが、何よりも恐ろしく、何よりも危険なことだった
奏は力なく、悲しげに微笑む
「ごめんなさい……。
最後まで、みんなに迷惑かけて」
そして、ふらりと虚ろに視線を落とした
その佇まいは、まるで逃げ場のない真っ暗な崖の最果てに、たった一人で立たされている人間そのものだった
あと一歩
ほんの少しでも何かを間違えれば、本当に二度と取り返しのつかない遠いところへ行ってしまいそうで。
俺は全身の血が凍りつくような戦慄を覚えていた
だから、今は。法律だとか、証拠だとか、そんな大人の事情なんてどうでもいい
何より先に、この壊れかけて崖から落ちそうな奏を、今すぐ力づくでもこちら側へと引き戻さなきゃいけないんだ
仲間として。友達として。血の繋がらない、本当の家族として
——絶対に、お前をあちら側へ行かせやしない。


