トップアイドルは白衣の天使に恋をする-Rebirth-

「もう、もう疲れたんだ」

奏はそう呟いたあと、完全に糸が切れてしまったかのように、力なく背後の壁へとその細い背中を預けた

ずりずりと床へ滑り落ちそうになるその姿が、どうしようもないほど痛々しかった

これまで、俺たちは何度も一緒に過酷な修羅場を乗り越えてきたはずだ

まだ何者でもなかったデビュー前の、先の見えない暗闇

どれだけ必死に歌っても踊っても、誰の目にも留まらなかった売れない時期

根も葉もない噂を立てられ、理不尽な叩かれ方をされて、悔しさに全員で唇を噛み締めた夜だって一度や二度じゃない

どんな逆風の中に立たされたって、俺たちの絆だけは絶対に折れなかった

だけど、こんな風に完全に心をへし折られ、魂まで死んでしまったような奏の姿なんて、俺はこれまでの長い歴史の中で一度だって見たことがなかった

「奏……っ」

俺はもう一度、掠れる声を絞り出して奏の名前を呼んだ

けれど、奏の瞳にはもう、俺たちの姿は映っていなかった

ただ、どこか果てしなく遠い、出口のない暗闇の向こうを見つめている

「……ねえ、陽貴さん」

カサカサに乾いた、消え入りそうな小さな声だった。 

「俺さ……」

奏はふっと笑ってみせた

およそ笑いと呼ぶにはあまりにも残酷な、痛々しいほどに乾いた苦笑

「一体、何のためにここまで頑張ってきたんだろうね」

その剥き出しの言葉がナイフのように突き刺さり、胸の奥が張り裂けそうなほど苦しくなる

「ただ……ファンのみんなに笑ってほしくて」

「みんなで、見たこともないくらいでっかいステージに立ちたくて」

「……俺にとって家族と同じだった『黒騎士』の場所を、誰よりも守りたくて……」

ぽつり。ぽつり。血を流すように、あいつの本当の本音が床へと落ちていく

「それなのに——」

その瞬間、奏の充血した両の瞳から、大粒の涙が一気に溢れ出した

「全部、俺が壊してるんだ。俺の存在が、みんなの未来を全部、めちゃくちゃに壊してるんだよ……」

激しく首を横に振る。何度も。何度も

まるで、これ以上自分を許してしまわないように、自分に最も残酷な罰を言い聞かせるみたいに、奏は涙を流しながら自らを責め立て続けていた