部屋の中へ視線を向けると、そこには目を覆いたくなるような痛々しい光景が広がっていた
床に転がったいくつもの空のペットボトル
涙の跡が沁みついた丸められたティッシュ
乱雑に脱ぎ捨てられた服
そして、学習机の上には、お母さんが運んできたのだろう、箸をつけた形跡すら一切ない冷めきった食事が手つかずのまま置かれていた
その部屋の惨状そのものが、この一週間、奏がどれほどの暗闇の中で孤独にのたうち回り、身を削るようにして苦しんでいたのかを無言で訴えかけていた
「奏……」
俺は喉の奥を突き上げてくる痛みを堪え、思わずその名前を呼んでいた
何か、奏の心を救う言葉をかけなければと必死だった
大丈夫だと
俺たちがついていると
こんな理不尽な罠のままお前のアイドル人生を絶対に終わらせたりしないと
今すぐそう叫びたかった
でも俺が言葉を紡ぎ出すより、ほんの一瞬早く
奏がゆっくりと、乾いた唇を開いた
焦点の合わない視線は、俺たちの顔を捉えていない
ただ、自分の裸足の足元、冷たい床の一点を見つめたまま、ぽつりと冷徹な言葉を呟いた
「俺……」
掠れて、今にも消え入りそうな声
ただその二文字を聴くだけで、胸の奥が雑に抉られるように苦しくなる。
そして、絶望に満ちた次の言葉が、静寂の廊下に容赦なく落とされた
「……黒騎士、やめます」
一瞬、その言葉の意味が脳内で結びつかなかった
いや。本当は一瞬で理解できてしまったからこそ、俺の防衛本能が、それを拒絶して理解したくないと叫んでいたんだ
廊下の空気が、一瞬にして完全な氷点下へと凍りつく
隣の蒼依が、これ以上ないほどに絶望に染まった目で大きく目を見開いた
いつだって冷静な優朔の身体も、まるで彫刻のように硬く固まっている
俺もまた、喉が完全に押し潰されたように言葉を失うしかなかった
奏は、凍りついた俺たちをあざ笑うように言葉を続ける
「……俺がいるから、こんなことになるんだ」
自嘲するように、不敵に歪められた唇
それは完全に心が壊れかけてしまった人間の顔だった
「俺がここにいるから、みんなに、取り返しのつかない迷惑がかかる」
「……スポンサーも、事務所も、応援してくれてたファンも、そして、俺にとって命より大切だった『黒騎士』も」
ぽつぽつと、まるで自分の罪状を淡々と並べ立てていく裁判官のように、冷え切った言葉が零れ落ちていく
「だから……」
奏は、胸の奥に溜まった澱をすべて吐き出すように、小さく息を吐いた
「……俺が、消えればいい。俺が、グループを辞めれば、すべて丸く収まるんだ」
その瞬間、俺の胸の最奥が、千切れるほどにぎゅっと激しく締め付けられた
違う。そんなわけないだろ。そんなこと、ここにいる誰も、世界中の本物のファンの誰も思ってなんかいない
叫びたいのに、今の奏の硬く閉ざされた心には、どんな正論も綺麗事も届かないのだと分かってしまう
床に転がったいくつもの空のペットボトル
涙の跡が沁みついた丸められたティッシュ
乱雑に脱ぎ捨てられた服
そして、学習机の上には、お母さんが運んできたのだろう、箸をつけた形跡すら一切ない冷めきった食事が手つかずのまま置かれていた
その部屋の惨状そのものが、この一週間、奏がどれほどの暗闇の中で孤独にのたうち回り、身を削るようにして苦しんでいたのかを無言で訴えかけていた
「奏……」
俺は喉の奥を突き上げてくる痛みを堪え、思わずその名前を呼んでいた
何か、奏の心を救う言葉をかけなければと必死だった
大丈夫だと
俺たちがついていると
こんな理不尽な罠のままお前のアイドル人生を絶対に終わらせたりしないと
今すぐそう叫びたかった
でも俺が言葉を紡ぎ出すより、ほんの一瞬早く
奏がゆっくりと、乾いた唇を開いた
焦点の合わない視線は、俺たちの顔を捉えていない
ただ、自分の裸足の足元、冷たい床の一点を見つめたまま、ぽつりと冷徹な言葉を呟いた
「俺……」
掠れて、今にも消え入りそうな声
ただその二文字を聴くだけで、胸の奥が雑に抉られるように苦しくなる。
そして、絶望に満ちた次の言葉が、静寂の廊下に容赦なく落とされた
「……黒騎士、やめます」
一瞬、その言葉の意味が脳内で結びつかなかった
いや。本当は一瞬で理解できてしまったからこそ、俺の防衛本能が、それを拒絶して理解したくないと叫んでいたんだ
廊下の空気が、一瞬にして完全な氷点下へと凍りつく
隣の蒼依が、これ以上ないほどに絶望に染まった目で大きく目を見開いた
いつだって冷静な優朔の身体も、まるで彫刻のように硬く固まっている
俺もまた、喉が完全に押し潰されたように言葉を失うしかなかった
奏は、凍りついた俺たちをあざ笑うように言葉を続ける
「……俺がいるから、こんなことになるんだ」
自嘲するように、不敵に歪められた唇
それは完全に心が壊れかけてしまった人間の顔だった
「俺がここにいるから、みんなに、取り返しのつかない迷惑がかかる」
「……スポンサーも、事務所も、応援してくれてたファンも、そして、俺にとって命より大切だった『黒騎士』も」
ぽつぽつと、まるで自分の罪状を淡々と並べ立てていく裁判官のように、冷え切った言葉が零れ落ちていく
「だから……」
奏は、胸の奥に溜まった澱をすべて吐き出すように、小さく息を吐いた
「……俺が、消えればいい。俺が、グループを辞めれば、すべて丸く収まるんだ」
その瞬間、俺の胸の最奥が、千切れるほどにぎゅっと激しく締め付けられた
違う。そんなわけないだろ。そんなこと、ここにいる誰も、世界中の本物のファンの誰も思ってなんかいない
叫びたいのに、今の奏の硬く閉ざされた心には、どんな正論も綺麗事も届かないのだと分かってしまう


