トップアイドルは白衣の天使に恋をする-Rebirth-

「……奏は? 」

押し殺したはずの俺の声が、静まり返ったリビングに低く響いた

その問いかけに、床に座り込んでいた音くんが、小さく肩を震わせてゆっくりと顔を上げる

真っ赤に腫れ上がった瞳から、堪えきれなくなった涙がまた一粒、頬を伝って床へとこぼれ落ちた

「……2階の、自分の部屋に……」

音くんは、掠れて今にも消え入りそうな声を絞り出すようにして、続けた

「ずっと、中に引きこもったまま……内側から、鍵をかけてて……。僕たちがお母さんを通して何度も呼びかけたんですけど、中からは何の返事もなくて」

「中で、何かあったらどうしようって……」

音くんの怯えた言葉が耳に届いた瞬間、胸の奥のざわつきは、確かな恐怖へと姿を変えた

もう、一分一秒だって躊躇している猶予はない

「……行こう」

俺は短くそう告げると、すぐさま踵を返してリビングを飛び出した

俺の背中を追うように、優朔と蒼依の足音がピタリと後ろに続く

一歩、また一歩と、軋む階段を踏みしめながら上へと登っていく

普段ならなんてことのない数段の階段が、今日だけは、まるで果てしなく続く茨の道のように重く、長く感じられた

階段を登りきるたびに、家全体の冷たい静寂が、俺たちの肌を容赦なく刺してくる

辿り着いた、廊下の突き当たり

そこにあるのが、奏の部屋のドアだった

俺たち3人は、その重苦しい木製の扉の前に並んで立つ

固く閉ざされたドアの向こうからは、物音一つ聞こえてこない

生きている気配すら感じられないほどの、死のような沈黙

いつもなら、この扉を開ければ「みんな揃ってどうしたんすか?」と最高に人懐っこい笑顔で出迎えてくれるはずの場所

それが今は、あいつを世界から隔絶するための非情な壁となって、俺たちの前に立ちはだかっていた

扉を睨みつける優朔の横顔は、彫刻のように硬く強張っている

その拳は、白い骨が浮き出るほどきつく握り締められていた

隣の蒼依は、今にも決壊しそうな涙を必死に堪えながら、ただ祈るように祈るように、じっとドアノブを見つめている

誰も、言葉を発することができなかった

だけど、3人の胸の内にある想いは、最初から完全に一つだった

どれだけ世間に叩かれようと、どれだけ理不尽な事を言われようと俺たちはお前を見捨てない

この扉の向こうで震えている大切な仲間を、絶対に一人きりで終わらせたりはしない

俺は覚悟を決めるように深く息を吸い込むと、震える右手をゆっくりと伸ばし、固く閉ざされたドアの表面を優しく叩いた