トップアイドルは白衣の天使に恋をする-Rebirth-

埼玉へと辿り着いた頃には、窓の外の世界はすっかり深い夜の闇に支配されていた

普段であれば、決して遠くは感じないはずの道程

それなのに、今日という日だけは、一秒が永遠に引き延ばされたかのように異様なほど長く、息苦しいものだった

一刻も早く、あいつの元へ着いてくれ

どうか、間に合ってくれ——

張り裂けそうな胸の内では、ただそれだけの祈りが、早鐘を打つ心臓の音とともに延々とループし続けていた

見覚えのある静かな住宅街へと、車が滑り込んでいく

カーナビが無機質な音声で目的地への到着を告げ、優朔がブレーキを踏み込んで完全に車を停めた、まさにその瞬間だった

俺たちの身体は、示し合わせたわけでもなくほぼ同時にドアを開け、夜の空気の中へと飛び出していた

逸る足留めを必死に引きずりながら玄関へと向かい、縋りつくようにインターホンを押し込む

数秒の、気の遠くなるような静寂

やがて、ガチャリと頼りない金属音を立てて、重い扉が開いた 

そこに立っていたのは、奏のお母さんだった

その姿を見た瞬間、俺の胸の奥は、容赦なく雑に雑巾を絞られるかのように痛烈に締め付けられた

お母さんの瞳は、痛々しいほどに真っ赤に腫れ上がっている

今日まで、どれだけの涙を流し続けてきたのだろうか

いつも綺麗に整えられていた髪は少し乱れ、その頬は痛ましいほどにやつれ果てていた

「お母さん……っ」

俺が絞り出すようにして声を掛けるすると、お母さんは俺たちの顔を認めた瞬間、堪えきれなくなったようにその場に崩れ落ち、両手で激しく口元を押さえた

「陽貴くん……、みんな……っ」

激しく震える声

そして次の瞬間、張り詰めていた心の糸が完全に切れてしまったかのように、その場に激しく泣き崩れてしまった

「どうしましょう……
もう、私たちじゃ、どうしたらいいのか分からなくて……っ」

嗚咽の隙間から漏れ出す、悲痛な叫び

横にいた優朔が、慌ててその細い肩を壊れ物を扱うようにそっと両腕で支え上げる

「大丈夫です、お母さん俺たちが来ましたから」

優朔は努めて落ち着いたトーンでそう声を掛けながらも、その場にいる誰一人として、本当に大丈夫だなんて思えるはずもなかった

俺たちは静かに、けれど促されるようにして家の中へと上がらせてもらった

重い足取りでリビングの扉を押し開ける

そして—

室内の景色を目にした瞬間、全員が声もないまま息を呑んだ

そこに、俺たちが探し求めていた奏の姿はなかった

代わりに、リビングのソファには生気を失ったようなお父さんが深く腰掛け、フローリングの床には弟の音くんが、まるで魂が抜けてしまったかのように座り込んでいた