電話を切ったあと
部屋には重たい沈黙が落ちた
誰も座ろうとしない
そんな場合じゃなかった
今この瞬間も奏は苦しんでいる
もしかしたらもっと悪い方向へ向かってしまうかもしれない
そんな考えが頭をよぎる
優朔が先に立ち上がった
「行こう」
短い一言
全員同じ気持ちだった
俺たちはすぐに荷物を掴む
その時だった
黒瀬さんが椅子から立ち上がる
疲労の色が濃い顔
ここ数日ほとんど寝ていないのだろう
それでも電話は鳴り続けている
スポンサー
テレビ局
事務所上層部
弁護士
対応しなければいけないことが山ほどある
俺は黒瀬さんを見る
黒瀬さんも俺たちを見る
数秒
視線が交わった
そして
「……頼む」
低い声だった
「俺はまた対応回らないとだから行けない」
悔しそうだった
本当は今すぐ奏のところへ行きたいはずだ
でも行けない
マネージャーとして今はこっちを守らなきゃいけないから
黒瀬さんは続ける
「奏を頼む」
その言葉に俺たちは同時に頷いた
「任せてください」
優朔が言う
「絶対一人にしないっす」
蒼依も続く
俺も強く頷いた
「行ってくる」
黒瀬さんが小さく笑う
その笑顔は少しだけ苦しそうだった
「頼んだぞ」
俺たちは事務所を飛び出した
地下駐車場
車へ向かう足が自然と速くなる
エレベーターが遅い
扉が開くのも遅い
全部がもどかしい
優朔が運転席へ乗り込む
俺は助手席
蒼依は後部座席
ドアが閉まる
エンジンがかかる
「シートベルト」
優朔が言う
全員無言で装着する
次の瞬間、車が走り出した
東京の夜景が窓の外へ流れていく
車内は静かだった
誰も喋らない
喋れない
ただ
それぞれが同じことを考えていた
奏
大丈夫か
間に合うか
音くんの泣き声が頭から離れない
『兄ちゃん助けてください』
あの声
今でも耳に残っている
蒼依が後ろで呟く
「……怖ぇっす」
小さな声だった
俺も同じだった
優朔もきっと同じだ
怖い
本当に怖い
会見の時より
記事が出た時より
今の方がずっと怖かった
奏は元々全部自分のせいだと思い込むタイプだ
誰かが傷付けば自分を責める
だからこそ今の状態は危険だった
優朔がハンドルを握りながら言う
「絶対一人にさせない」
低い声
決意が滲んでいた
「うん」
俺も答える
「絶対大丈夫」
そう言った
でも本当は自分自身に言い聞かせていた
車は高速へ乗る
埼玉までそう遠くない
普通なら
一時間もかからない
でも今日だけは異常に長く感じた
窓の外を見ながら
俺は携帯を握る
奏とのトーク画面
最後のやり取り
『またみんなで飯行こうな』
数日前のメッセージ
その文字を見るだけで胸が痛い
だから
待ってろ
奏
絶対に
一人にしないから
俺たちは夜の高速道路を走り抜けながら
ただひたすら
埼玉にある奏の実家を目指した
部屋には重たい沈黙が落ちた
誰も座ろうとしない
そんな場合じゃなかった
今この瞬間も奏は苦しんでいる
もしかしたらもっと悪い方向へ向かってしまうかもしれない
そんな考えが頭をよぎる
優朔が先に立ち上がった
「行こう」
短い一言
全員同じ気持ちだった
俺たちはすぐに荷物を掴む
その時だった
黒瀬さんが椅子から立ち上がる
疲労の色が濃い顔
ここ数日ほとんど寝ていないのだろう
それでも電話は鳴り続けている
スポンサー
テレビ局
事務所上層部
弁護士
対応しなければいけないことが山ほどある
俺は黒瀬さんを見る
黒瀬さんも俺たちを見る
数秒
視線が交わった
そして
「……頼む」
低い声だった
「俺はまた対応回らないとだから行けない」
悔しそうだった
本当は今すぐ奏のところへ行きたいはずだ
でも行けない
マネージャーとして今はこっちを守らなきゃいけないから
黒瀬さんは続ける
「奏を頼む」
その言葉に俺たちは同時に頷いた
「任せてください」
優朔が言う
「絶対一人にしないっす」
蒼依も続く
俺も強く頷いた
「行ってくる」
黒瀬さんが小さく笑う
その笑顔は少しだけ苦しそうだった
「頼んだぞ」
俺たちは事務所を飛び出した
地下駐車場
車へ向かう足が自然と速くなる
エレベーターが遅い
扉が開くのも遅い
全部がもどかしい
優朔が運転席へ乗り込む
俺は助手席
蒼依は後部座席
ドアが閉まる
エンジンがかかる
「シートベルト」
優朔が言う
全員無言で装着する
次の瞬間、車が走り出した
東京の夜景が窓の外へ流れていく
車内は静かだった
誰も喋らない
喋れない
ただ
それぞれが同じことを考えていた
奏
大丈夫か
間に合うか
音くんの泣き声が頭から離れない
『兄ちゃん助けてください』
あの声
今でも耳に残っている
蒼依が後ろで呟く
「……怖ぇっす」
小さな声だった
俺も同じだった
優朔もきっと同じだ
怖い
本当に怖い
会見の時より
記事が出た時より
今の方がずっと怖かった
奏は元々全部自分のせいだと思い込むタイプだ
誰かが傷付けば自分を責める
だからこそ今の状態は危険だった
優朔がハンドルを握りながら言う
「絶対一人にさせない」
低い声
決意が滲んでいた
「うん」
俺も答える
「絶対大丈夫」
そう言った
でも本当は自分自身に言い聞かせていた
車は高速へ乗る
埼玉までそう遠くない
普通なら
一時間もかからない
でも今日だけは異常に長く感じた
窓の外を見ながら
俺は携帯を握る
奏とのトーク画面
最後のやり取り
『またみんなで飯行こうな』
数日前のメッセージ
その文字を見るだけで胸が痛い
だから
待ってろ
奏
絶対に
一人にしないから
俺たちは夜の高速道路を走り抜けながら
ただひたすら
埼玉にある奏の実家を目指した


