トップアイドルは白衣の天使に恋をする-Rebirth-

奏を乗せた車がゆっくりと動き出す

窓越しに見える奏はまだ目を赤くしていた

それでも最後は小さく笑っていた

その笑顔が逆に苦しかった

無理しているのが分かるから

車は事務所の駐車場を出ていく

見えなくなるまで俺たちは誰も動かなかった

蒼依も

優朔も

ただ黙って見送っていた

奏がいない

たったそれだけなのに隣がぽっかり空いたような感覚だった

黒騎士はいつだって四人だった

デビューしてから今まで

どんな仕事も

どんなライブも

当たり前みたいに四人で立ってきた

だから一人欠けるということがこんなにも大きいなんて思わなかった

やがて車が完全に見えなくなる

その時だった

「みんな」

後ろから声がした

振り返る

黒瀬さんだった

その顔を見た瞬間胸の奥がざわつく

何かある

直感的にそう思った

黒瀬さんはしばらく俺たちを見ていた

そして小さく息を吐く

「少し時間あるか」

その声はいつもより重かった

俺たちは無言で頷く

そのまま会議室へ移動した

誰も喋らない

重たい空気

会議室へ入る

椅子へ腰を下ろす

黒瀬さんはすぐには話さなかった

机へ両手をつく

何かを考えるように目を閉じる

そして

ゆっくり口を開いた

「社長と話した」

その言葉だけで空気が変わった

嫌な予感がする

蒼依も真顔になる

優朔は腕を組んだまま動かない

黒瀬さんは続けた

「黒騎士は」

一度言葉を切る

そして

「当面の間、活動休止に入る」

静かな声だった

でも

その一言は重かった

頭を殴られたみたいだった

分かっていた

可能性としては十分あった

ここ最近の状況を見れば

そんなことくらい

誰だって分かる

でも実際に言葉として聞くのと想像するのとでは全然違う

活動休止

黒騎士結成以来初めてだった

ライブも

番組も

CMも

雑誌も

全部止まる

蒼依が俯く

「マジっすか……」

小さな声だった

その声が妙に苦しかった

優朔も何も言わない

ただ静かに前を見ていた

俺も言葉が出ない

黒瀬さんは続ける

「スポンサー対応は全部こっちでやる」

「テレビ局にも説明する」

「ツアーも中止だ」

胸が痛む

追加ドームツアー

ずっと準備してきた

ファンも楽しみにしてくれていた

でもそれすら今はできない

黒瀬さんは資料を見つめながら言う

「悔しいよ」

その声に俺たちは顔を上げた

黒瀬さんが感情を見せるのは珍しい

「本当に悔しい」

「お前ら何も悪くないのに」

「こんなことになるなんてな」

その言葉に誰も返事ができなかった

悔しいのはみんな同じだった

何もしていない

なのに

仕事がなくなる

居場所がなくなる

夢が止まる

そんな理不尽があるのかと思った

でも

黒瀬さんは続ける

「ただ」

その声は少し強くなる

「今は奏だ」

会議室が静まる

「ライブより先に」

「仕事より先に」

「今は奏を守る」

その言葉に

俺は目を閉じた

頭に浮かぶ

さっきの奏の顔

泣いていた姿

痩せた身体

眠れない夜

食べられなくなった日々

そして何度も謝っていた姿

そうだ

今は奏だ

黒騎士より

俺たちより

まずは奏だ

蒼依が小さく頷く

「……っすね」

優朔も静かに言った

「異論ない」

俺も頷いた

それが答えだった

黒瀬さんは少しだけ表情を緩める

「ありがとう」

その一言だった

しばらく沈黙が流れる

誰も喋らない

でも不思議と気持ちは一つだった

今は待とう

奏が帰ってくるまで

どれだけ時間がかかっても

その時ふと会議室の壁に貼られたポスターが目に入った

四人で笑っている

つい数か月前に撮ったツアービジュアル

誰もこんな未来を想像していなかった

俺はそのポスターを見ながら思った

絶対に終わらせない

黒騎士は終わらせない

奏が戻ってきた時

また四人で笑えるように

また同じステージへ立てるように

そのために

今は耐える

戦うのはその後だ

こうして

黒騎士は結成以来初めての活動休止へ入った

誰も望んでいなかった

誰も納得なんてしていなかった

それでも

俺たちは前を向くしかなかった

仲間を守るために