さっさと手を洗って誰もいないリビングを通しすぎ、自室へと向かった。
自室のドアを閉めるとすぐさまパソコンを立ち上げ、ヘッドフォンを耳に付けた。録音ボタンを押す。
瞬間、私は音とひとつになった。
胸に溜まった音を、譜面の上で踊るようにリズムと言葉にのせ、紡ぐ。
この感覚をどう表現すればいいだろうか。私のようで私じゃないような、もうひとりの自分に操られているような。なにかに憑りつかれたとでも言えるこの感覚を――。
ワンコーラス歌ったところで、ふいに音が枯れた。溜まった音をすべて吐き終わったからだ。
ふっと身体から力が抜け、ベッドに倒れこんだ。バネがギシッと音を立てる。
微かに息が上がっていた。それに気づかないほど集中して歌っていたらしい。そんな状態だから到底起き上がる気力なんて湧かなかった。なんとなしにスカートのポケットからスマートフォンを取り出し、Xを開く。すると左上に見慣れたアイコンが浮かんだ。
澄んだ空のもとでひとつ、儚くも強くひかる星の写真だ。
それをタップするとプロフィール画面が表示された。
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ステラ @77__stellar
夜の片隅で私の音を紡ぎます。☆
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これがもうひとりの私だ。心星の"星"をスペイン語で"ステラ"ということから名付けた。



