ホームルームが終わり、梨々花と美波が私の席にやってきた。明るくて高く結んだポニーテールが特徴なのが梨々花で、気だるげで腰まで長い茶髪を下ろしているのが美波だ。
ふたりの声に適当に応えつつ、スクールバッグを手に立ち上がった。すると梨々花が「ねねね!」とスマホの画面をバッとこちらに向けてきた。そこにはどろっとして甘そうなドリンクが映っていた。
「スタバの新作今日からだって! ちょっと寄ってかない?」
その提案に「おーいいじゃん。寄ろ寄ろ」と美波が賛成する中、私は浮遊感を覚えた。心が支えを失って不安定になる感覚。
これは焦りだ。早くに帰って音を紡がないとという情動。この焦りを解消しないと私はすぐダメになる。だから新作楽しみだねと話すふたりを前に、歯切れ悪く切り出した。
「あーー、悪いんだけど私今日パス。このまま帰るわ」
「え、どうして?」
梨々花の純粋な疑問が私の胸にちくりと刺さり、そこからじわじわと罪悪感が広がった。まるで白いシャツにコーヒーを零したみたいだ。
みんなで寄り道しようってときに空気も読まず誘いを断って家に帰るなんて心苦しい。でもそれ以上に今すぐ音をかたちにしないとという使命感にも似た衝動に支配されている。
そんな小さな葛藤を悟られないように、首元に手を当てて取り繕った。手に触れた髪が無駄にサラサラしていて、まるで違う人の髪のようだ。美容院でストレートパーマをあててもらうようになってからかれこれ3年は経つというのに、未だに慣れない。



