ようやく家に辿り着き、大きな門を潜った八重は、無言のまま玄関を開けて乱雑にローファーを脱ぎ去った。
もうすぐ日付を跨ぐというのに、外の行灯も家の中も明かりが灯っている。
居間に人の気配はなく、八重は足早に自室へと向かっていた。
もう、頭の中がぐちゃぐちゃだった。
「本当、八重お嬢はなぁ……」
自分の部屋へと向かう途中、通りがかった隙間の開いた襖から自分の名前が聞こえてきた。
息を殺して隙間を覗き込む。そこは若い舎弟たちの部屋のようだ。
「なんであの子が組長の孫なんだ?」
「性格が似ても似つかねぇよな」
舎弟たちは襖の外に立つ八重の存在に気づくことはなく、口々に不満を漏らし始めた。
「妹の愛梨お嬢は素直でいい子なのに、姉妹でどうしてあんなに違うんだ?」
「しかも組長の名前を使って外でも好き放題やってるらしいぞ」
「あぁ、間違いねぇ。八重お嬢のまともな話しなんて聞いたことねぇぜ」
「……俺さ、兄貴に聞いたけど、あの二人がここに預けられたのも、本当なら八重お嬢だけが――」
………聞きたくない。
唇をきゅっと強く結び、声が漏れないよう八重はそっと襖から離れた。
それから自室に入った八重は、とぼとぼと重い足取りでベッドの上に座り込んだ。
誰もあたしを見てはくれない。
誰もあたしを理解してはくれない。
あたしは悪くなんてないのに、どうしてこんなに惨めな思いをしなきゃならないの?
「……せいよ」
その答えは分かっている。
すべて妹の愛梨のせいだ。
愛梨がいるせいで、自分がこんな哀れな姿になっているのだ。
全部、全部、全部、全部。
元凶はすべて妹。
腹立たしくて、悔しくて。
その強い感情が大粒の涙になって目からこぼれ落ちる。



