「愛、梨……」
「ど、どうしたのその格好!?」
ぐちゃぐちゃの髪や、乱れた衣服。崩れた厚化粧の八重の姿に、愛梨は三人の後ろから飛び出し駆け寄った。
心配そうにする愛梨の顔。
その顔はとても純粋無垢で。歪んだ心の八重には、今最も見たくなかったものだった。
「……のせいよ」
「お姉ちゃん?」
「全部あんたのせいよ!!」
八重はいつものように暴言を繰り返し言い放つ。
どうしてこんな目に遭わなきゃいけない。
どうして自分が惨めな思いをしなきゃいけない。
(どうして、愛梨じゃなくてあたしがっ……!!)
「最悪! あんたがいたから! あんたのせいで!!」
収まることのない怒りを愛梨に言い捨てる八重は、最後に姉として言ってはならない言葉を放ってしまった。
「――あんたなんか、消えればいいのに!!」
パシンッ。
八重の右頬に、ちくりとした痛みが走った。
「てめぇ、いい加減にしろよ!」
「透、馬……?」
頬を押さえた八重は大きく目を見開く。
自分を叩いた相手は……八重が気になっている少年、透馬だったのだ。
「八重ちゃん、今のはいけないな」
「……最悪」
巳鶴も、兎香も、八重を軽蔑した様子で見つめている。
愛梨に至っては悲しみを我慢しているのか、胸の辺りで両手を握りしめ、小さく肩を震わせていた。
ああ、まただ。この目、心の底からの軽蔑。
八重の心には多くの感情が混ざりに混ざって出来上がった黒い靄が渦巻いていた。
透馬に叩かれたショックもあるからか、八重はこの場を逃げるように背を向ける。
「お、お姉ちゃん!!」
愛梨の呼び止めも耳には入らず、八重はまた家路を走った。
「あたしは、何も悪くない……っ!!」



