「失礼しまーす! ご注文のアイスメロンソーダとポテトフライ四人前、お持ちしました!」
入り口の扉が不意に開けられ、入って来たのは店員だった。
突然扉を開けられた風丸の男たちと、開けたらわけが分からない光景を見てしまったカラオケ店員は同時に動きを止める。
「………ッ!」
「ぐっ!?」
その隙に八重は男たちを押しのけ、鞄を引っ掴んで扉まで走る。
「うわっ」
不思議そうに首をかしげていた店員の肩に、八重は身体をぶつけた。
がしゃん、とトレーに乗せられていたドリンクや食べ物が音を立てて床に落ちる。
それでも八重は風丸の男たちから早く逃げたくて、店員に謝罪の言葉ひとつもせずカラオケ店を出ていった。
すっかり暗く沈んだ空に、街灯の光がキラキラと瞬いていた。
二十三時はとっくに過ぎて、ネオンの通りには酔っ払いや水商売の女性たちの姿が多く目立つ。
乱れた髪、乱れた衣服。そんな酷い有様を通行人にちらちらと見られながらも、八重は足を止めることはなかった。
まだ、押さえつけられた感覚が体に残っている。
(なんであたしがこんな目に遭わなきゃなんないのよ……っ)
荒くなった息、両目からは今まで我慢していた涙が一気に溢れ出てくる。
全部、全部、全部。
「愛梨のせいよっ!」
惨めな思いも。
恐怖した思いも。
すべては妹のせい。
「きゃっ!」
「っ⁉︎」
ふと、曲がり角に差し掛かったとき、反対側から現れた人物によって八重は尻餅をついてしまった。
色褪せた街灯の光だけが頼りな道。
衝撃に顔を歪ませながら八重は顔を上げる。
「……あれ、八重ちゃん?」
「げ……」
「………チッ」
聞き覚えのある声。
ほか二人の反応は酷いものだったが、その姿を目にして、八重には小さな安心感が生まれた。
道の角から現れた人物は、巳鶴、兎香、透馬……学校で会ったきりの彼らの姿だった。
「あっ……」
「八重お姉ちゃん!?」
しかしすぐに現実へと引き戻される。
三人の背後から顔を覗かせたのは妹の愛梨で。八重の開きかけた口は、しぼむように閉じてしまった。



