その日、学校は午前授業で終了した。
愛梨のことで機嫌が悪くなっていた八重は、取り巻き二人と街で憂さ晴らしをしていた。
何でもいいから気分を変えたかった八重に、取り巻き二人が提案してきたのはカラオケでの合コンだった。
夜の二十二時を回る頃にはすっかり八重も、相手の男たちも盛り上がっていた。
「ねぇ、二人はどこ?」
「んぁ? アイツら? トイレじゃないの?」
ふと室内を見回したとき、先ほどまでいた取り巻き二人が消えていることに八重は気がついた。
言われた通りトイレに様子を見に行ってみると、扉越しから二人の会話が外に漏れていて。
自然と八重は耳を澄ませていた。
「……つーかさ、マジであの女だるくね?」
女子トイレの中から聞こえてくる声は、八重の取り巻き二人で間違いない。
「そもそもさぁ、家が極道だからって調子乗ってんじゃん」
「そうそう、顔も性格もブスの癖にぃ」
八重は扉に耳を寄せて自分への悪口に唇を噛みしめた。
(何よあいつら。好き勝手言って……!)
しかし、その怒りはふつふつと心の中で留めるだけで、八重が扉を開けて中に乗り込むことはなかった。
「てゆーかさー、妹が罪のマリアだから、あの女の隣にいれば幹部メンバーに近づけると思ったのに」
「それどころか超嫌われてるしあり得ないっしょ!」
「ジジイのところに住んでるって聞いたけど、どうせ親に愛想尽かされて捨てられたんじゃねっ?」
「絶対にそう! あたしだってあんな子どもいたら捨ててるわ〜」
声高い笑い声が八重の頭の奥にこだました。
手を強く握って、奥歯をぎりりと食いしばる。
「………」
結局、八重は逃げるようにその場を離れ、部屋に戻っていった。
「あれ、八重ちゃんどったの〜?」
「………あたし、もう帰る。シラケた」
「は?」
冷めた八重の声に、合コン相手の男たちは眉を顰めた。
しかし八重は気にする素振りもなく自分が座っていた長椅子から鞄を取り、そのまま出て行こうとする。
「ちょ、待てって! いきなりなんなんだよっ?」
突然のことに扉の前で立ち塞がる男に、八重は舌打ちをして身構えた。
「うざっ。ていうかキモい! 少し遊んだくらいで鬱陶しいのよっ!」
「あぁ? なんだそれ」
男たちは八重の発言に顔を歪ませた。



