近寄って来た愛梨と罪の幹部三人。
純粋な笑顔を自分に向ける愛梨に、八重はまたかすかな苛立ちを覚える。
しかし、目当ての少年を目にした八重は、愛梨の横を素通りすると分かりやすい態度で少年に近寄った。
「おはよ、透馬っ」
「近寄んな、香水くせぇんだよ」
八重の目当ての人物。橙色の髪をしたワイルドと言う言葉が良く似合いそうな少年。
九条 透馬(くじょう とうま)は、八重の大接近に鬱陶しそうに顔を歪めた。
けれどいつものことなので、八重は大して気にする様子を見せない。
「もしかして、照れてるのかしらっ?」
残念なことに八重は大きな勘違いをしていた。
八重の取り巻きたちは、罪の幹部を近くで見られて興奮しているのか、黄色い声を上げている。
「八重ちゃん。今日も相変わらずの性格だねぇ」
「巳鶴、褒めてるの? 何もでないわよっ?」
透馬の横からひょっこり現れたのは、ゆるっとした表情からか、その服装からか、軽い印象を受ける暗紅色の髪の少年だった。
花塚 巳鶴(はなつか みつる)は、にこやかな笑顔を八重に向ける。そんな巳鶴に透馬は任せたと言う素振りで少し後ろに下がった。
「べつに褒めてるわけじゃないんだけどね」
「兎香、何か言った?」
「べつに何もないけどさ。ていうか名前で呼ばないでくれる?」
「どうして? 可愛い名前なのに」
「………あ"?」
可愛い。その単語を聞いた瞬間、黒髪に牡丹色のメッシュをした遠月 兎香(とおづき うか)は顔を歪め、八重には聞こえないように小さく舌打ちをしてみせた。
どうやら禁句ワードだったが、八重はまったく気づかずにいる。
苛つきを紛らわすためか、兎香はポケットからスティックキャンディを取り出し、口に入れるとザクザク音を立てて飴を砕き食べ始めた。
「チッ」
「う、兎香……落ち着いて、ね?」
不機嫌オーラ丸出しになってしまった兎香を、愛梨は諌めている。
(なんで、この子ばっかり)
仲の良さそうな愛梨達たちの姿に、八重の心には妬ましさが募った。



