「ほんとイライラするのよねっ、うざっ」
家を出た八重は片手にスマホを握りしめながら歩道を歩いていた。
八重と同じ制服を着た、登校中の生徒たちは彼女の姿を目にするとそそくさと避け始める。
八重の家が極道一家ということは、同じ高校の生徒たちは皆知っているのだ。
そしてその立場を使って大きな顔をしている八重の存在は、校内ではかなり悪い意味で知れ渡っている。
「堂島さ〜ん」
「おはようございまぁす」
しかし例外もあった。八重に近づいてきた派手な二人組の少女。どちらも八重と同じく厚化粧を施していた。
八重と同じ種類のギャル二人は、いわゆる取り巻きのような存在だった。
「……ああ、おはよ」
八重は二人に軽く挨拶をすると何食わぬ顔で学校へ向かった。
「きゃー! 罪(ざい)の人たちよっ」
「いいなぁ、あたしもマリアになりた〜い」
学校の校門に到着すると、八重の視線の先には女子生徒の人集りができていた。
黄色い声の先には、数名の目立つ少年たちの姿が確認できる。
「巳鶴(みつる)さんだぁ!」
「きゃー! 今朝は罪(ざい)の三人が勢揃いじゃんっ!」
八重の取り巻き二人も例外ではなく、視線の先にいる顔立ちの良い少年たちに頬を赤らめていた。
関東No.1暴走族チーム『罪』
たった今校門を通ったのは、その有名な暴走族チームの二代目幹部メンバーだった。
そして女子生徒が口にした『マリア』は、唯一親身に彼らに近づける存在であり、彼らが側にいることを許した女を示した別称である。
……そして、そのマリアは。
「あっ、お姉ちゃん!」
可愛らしい声が聞こえた瞬間、八重は足を止めた。
視線をそちらに向けると、数メートル離れた先に八重を見つめる少女の姿があった。
「……愛梨」
八重とはまったく色の違う薄い亜麻色の髪と目の、誰が見ても美少女と思われるだろう容姿の人物。
堂島 愛梨(どうじま あいり)は、八重の一つ歳下の妹である。
昨日入学式を終えたばかりの愛梨は、罪のメンバーと登校してきたのだ。
八重より随分と前に家を出た愛梨だが、きっと罪の溜まり場に使われている倉庫にでも寄っていたのだろう。
年子の妹、愛梨は関東No.1暴走族チーム『罪』でマリアという地位に立つ少女なのである。



