君と歌姫はじめました!

「ユニット名は……とりあえずまだ保留かな」

「うーん.........」

有栖はラグの上に寝転がりながら、天井を見上げた。

「名前って難しくない?」

「難しいね」

「一回決めたら変えにくいし」

「うん」

「しかもさ、ダサかったら終わりじゃん」

「そこまでじゃないけど」

「いや終わりだよ人生」

「重くない?」

零は小さく笑って、次の行にカーソルを移した。

『【予算】』

その文字を見て、有栖は一気に現実に引き戻された。

「……予算?」

「うん」

「え、なにそれ急に現実すぎない?」

「大事だよ。機材とか、動画環境とか」

「うっ……」

有栖はラグの上で丸くなる。

「そういうの、考えたくなかったやつ……」

「考えないと始まらないやつでもある」

零は指を軽く組みながら続けた。

「マイクとか、編集ソフトとかもだね。

あと、撮影場所も借りなきゃ。防音のとこ探そう。」

「そーだねぇ……」

「今までみたいに『なんとなく』じゃ続かないから」

カーソルが点滅する音だけが、やけに大きく感じる。

有栖はしばらく黙っていた。

そして、小さく息を吐く。

「……いくらくらいかかるの、それ」

 零は少しだけ考えてから答えた。

「ちゃんとやるなら、最初はそれなりに必要かも」

「それなりって何!? こわいんだけど!」

「安心していい額ではないかもね」

「安心させてよそこは!」

有栖は頭を抱えた。

零はそんな彼女を見て、ふっと目を細める。

「でもさ」

「ん……?」

「別に、最初から完璧に揃える必要はないよ」

その声は少しだけ柔らかかった。

「できる範囲で始めて、足りないものは後から足せばいい」

有栖はゆっくり顔を上げる。

零はキーボードに視線を戻しながら続けた。

「まずは、『始めるための最低限』だけ決めよう」

カーソルが、静かに瞬く。

その光が、やけに現実的で。

でも同時に、少しだけ未来っぽくも見えた。

零はキーボードを数回叩き、ワープロ画面を最小化した。

「一回、調べるね」

「んー」

有栖はラグに寝転がったまま、天井を見ている。