君と歌姫はじめました!

***

それから数十分後。

「「ご馳走様でした」」

またぴたりと重なった声に、

有栖の母が「二人とも、ほんと仲良いわねぇ」と笑った。

食器を軽く片付けてから、二人はそのまま二階へ戻る。

有栖の部屋に入ると、ふわりと柔軟剤の匂いがした。

床に敷かれた丸いラグの上へ、二人してどさりと座り込む。

有栖はいつものように豪快なあぐら。

零は少し崩した正座だ。

その向かいに小さなミニテーブルを引き寄せて、

ノートやシャーペンを広げる。

「まず何決める?」

零が問いかける。

「んー……名前とか?」

「ああ、ユニット名」

「それそれ!めっちゃぽい……!」

有栖はちょっと楽しそうに目を輝かせた。

その時だった。

「あ」

何かを思い出したみたいに、有栖がぽんと手を打つ。

「どうしたの?」

「確かこの辺に……」

ごそごそ、とクローゼットを漁り始める。

服の山を掻き分け、収納ケースを引っ張り出し、しばらくして。

「あったー!!」

ずるずると引っ張り出されたのは、一台のノートパソコンだった。

薄型で、シンプルな黒いモデル。

しかも結構いいやつだ。

零が少し目を丸くする。

「……それ、かなりスペック高いやつじゃない?」

「らしいね」

「らしいって」

「昔お母さんたちが誕生日に買ってくれたの」

有栖はパソコンを抱えながらラグへ戻ってくる。

「『最近の子はみんな持ってるでしょ』って」

「いいご両親だなぁ」

「ね。でも」

有栖は遠い目をした。

「私、自分が壊滅的機械音痴だって知らなくて」

「あぁ……」

「三日でクローゼット行き」

「早」

「だって何押したらいいか分かんないんだもん!」

有栖はむすっとしながらパソコンをテーブルに置く。

「しかもなんか一回、画面真っ青になって泣いた」

「ブルースクリーン?」

「知らない。でもマジで終わったと思った」

零は耐えきれず吹き出した。

「有栖、それでよくこの現代社会生きてこれたね」

「失礼じゃない!?」

言いながら、有栖は恐る恐るパソコンを開く。

すると。

「……うわ」

零が小さく声を漏らした。

ほぼ新品だったのだ。

キーボードも綺麗で、使用感がほとんどない。

「ほんとに使ってなかったんだね.......」

「うん」

「宝の持ち腐れだ」

「ぐぅの音も出ない……」

有栖は肩を落とす。

そんな彼女を見ながら、零はふっと柔らかく笑った。

「でもちょうどいいね」

「え?」

「これ、動画編集にも使えるじゃん。

予算はできるだけ削りたかったから、ありがたい。」

その言葉に、有栖はぱちりと瞬きをした。

さっきまでただの『置物』だったパソコンが、

一気に意味を持った気がした。

零はパソコンの電源が入るのを確認すると、

迷いなくタッチパッドに指を滑らせた。

カタカタ、と軽い操作音。

「……あ、これなら普通に使えるじゃん」

「うっそお!」

有栖が半目になるのをよそに、

零は手慣れた様子でワープロアプリを開いた。

白い画面が立ち上がる。

カーソルが点滅する。

その一番上に、まず一行。

『ユニット名:』

まだ空白のまま。

点滅するカーソルだけが、

打ち込む準備を万端にして待ち構えている。