君と歌姫はじめました!

湯気の立つ唐揚げ。

卵焼き。

サラダ。

味噌汁。

高校一年生の現在では、見慣れた光景だ。

「「いただきまーす」」

二人揃った声が食卓に響く。

向かい合わせに座り、自然な流れで箸を伸ばす。

「ん〜っ! おいしい!」

「うん、美味しいです。」

「零くんいっぱい食べなね〜」

「ありがとうございます」

もう何百回も繰り返してきた光景だった。

有栖の父親は今日は夜勤らしく不在で、

食卓には三人だけ。

テレビではバラエティ番組が流れていて、

有栖は時々それに笑いながらご飯を頬張っていた。

そんな中。

「あ、そうだ」

唐突に、有栖が顔を上げる。

「お母さん」

「んー?」

「私たち、動画出そうと思ってる」

一瞬。

箸を持つ母親の手が止まった。

「……動画?」

「うん。なんか歌?みたいな」

「へぇ?」

驚いたように目を瞬かせたあと、有栖の母はゆっくり零を見る。

「零くんも?」

「はい」

零は穏やかに頷いた。

「僕が作曲と編集、あとは楽器とかをやって、

有栖が作詞と歌を担当する予定です」

「えぇ〜! すごいじゃない!」

返ってきたのは、想像以上に軽快な反応だった。

「反応軽っ」

「若いって良いわ〜」

有栖の母は楽しそうに笑う。

「有栖、昔っから歌好きだったもんねぇ」

「……まあ、そうだね」

「お風呂でもずーっと歌ってたし」

「やめて!?」

「スーパーでも歌ってたわね」

「それは小さい頃でしょ!」

顔を真っ赤にする有栖を見て、零が肩を震わせる。

「零まで笑わないでよ!」

「ごめん、つい」

「もう〜……」

有栖はぶすっとしながら唐揚げを頬張った。

その様子を見ながら、有栖の母はふっと目を細める。

「でも、いいんじゃない?」

「え?」

「好きなことを形にするのって、大事だと思うよ」

優しい声だった。

「別にすぐ結果が出なくてもさ。

二人が楽しいなら、お母さんはそれだけで嬉しいなぁ。」

その言葉に、有栖は少しだけ目を丸くした。

零が言っていた言葉を思い出す。

——「別に最初から上手くいかなくてもいいよ。」

なんだか似ている気がして、有栖は少しだけ笑った。

「……うん」

「応援してる」

「ありがと」

有栖が照れくさそうに笑う横で、

零も静かに「ありがとうございます」と頭を下げた。