「放課後、君の隣で」

「結衣、顔にやけてる」

翌朝、教室に入った瞬間、美桜にそう言われて結衣は固まった。

「そ、そんなことない!」

「あります〜。昨日絶対なんかあったでしょ」

図星すぎて目を逸らす。

でも昨夜のことを思い出すだけで、胸が熱くなってしまう。

“じゃあな、結衣”

名前を呼ばれた瞬間の声が、まだ頭から離れなかった。

その時、担任が教室へ入ってくる。

「来月の文化祭、クラスの出し物決めるぞー」

教室が一気に盛り上がった。

話し合いの結果、クラスは「カフェ」をやることになる。

そして——

「じゃあ接客係、このメンバーね!」

黒板に名前が書かれる。

春川結衣。
神谷蓮。

「……え?」

結衣は目を丸くした。

周りは面白がるように騒ぎ始める。

「お似合いじゃん!」

「絶対人気出るって!」

恥ずかしくて消えたくなる結衣とは反対に、蓮は意外と平然としていた。

むしろ少し笑っている。

放課後、文化祭準備のため居残りになる。

教室には段ボールや飾りが散らばっていて、みんな賑やかに作業していた。

結衣が脚立に乗って飾りを貼っていると、

「危なっ」

ぐらっ。

バランスを崩しかけた瞬間、下から蓮が支えた。

「だから無理すんなって」

近い。

またこの距離。

「ご、ごめん……」

蓮はため息をつきながらも、結衣をゆっくり床へ降ろす。

その様子を見ていたクラスメイトたちが騒ぎ出した。

「なに今の少女漫画!」

「神谷くんかっこよ!」

結衣は顔を真っ赤にする。

でも蓮は気にした様子もなく、

「次どれやる?」

と普通に聞いてきた。

その自然さが、逆にずるい。

準備が終わる頃には、外はすっかり暗くなっていた。

教室には結衣と蓮だけが残る。

窓の外には、夜の街の光。

「文化祭さ」

蓮が静かに口を開く。

「終わったら、一緒に回ろ」

結衣の胸が跳ねる。

「……ふたりで?」

「嫌ならいい」

少し不安そうな声。

結衣は慌てて首を振った。

「嫌じゃない!」

その返事を聞いた蓮は、安心したように小さく笑う。

「じゃ、決まり」

文化祭。

その言葉だけで、胸が期待でいっぱいになる。

だけど同時に——

この気持ちがどんどん大きくなっていくのが、少し怖かった。