「放課後、君の隣で」

最近、蓮は時々どこか遠くを見るような目をする。

笑っていても、急に静かになる瞬間があった。

結衣はそれが少し気になっていた。

ある日の放課後。

教室へ忘れ物を取りに戻った結衣は、廊下の奥から聞こえてきた声に足を止める。

「……まだ引きずってんの?」

悠真の声だった。

「別に」

「嘘つけ。お前、あの日から変わったじゃん」

結衣は思わず物陰に隠れる。

蓮の低い声が聞こえた。

「……もう終わった話だろ」

「でもお前、自分責めてる」

空気が重くなる。

結衣は聞いちゃいけない気がしたのに、足が動かなかった。

「事故だったんだぞ」

その言葉に、結衣の胸がざわつく。

事故……?

次の瞬間、蓮がこちらを見た。

目が合った。

「……春川?」

結衣はびくっと肩を揺らす。

「ご、ごめん……! 忘れ物取りに来ただけで……」

気まずい沈黙。

悠真は空気を読んだようにため息をついた。

「俺、先帰るわ」

去っていく背中を見送りながら、結衣はどうしていいか分からなくなる。

蓮は無言のまま窓の外を見ていた。

夕焼けが、その横顔を赤く染める。

「……聞いた?」

小さな声。

結衣は迷ったあと、ゆっくり頷いた。

蓮は自嘲するように笑う。

「引くだろ」

「え……?」

「俺、中学の時バスケやってたんだ」

結衣は静かに耳を傾ける。

「試合の日、俺のせいで後輩が怪我した」

蓮の拳がぎゅっと握られる。

「無理させた。止められたのに」

苦しそうな声だった。

「それから部活辞めたし、人ともあんま関わんなくなった」

結衣は胸が痛くなる。

蓮はずっと、自分を責め続けてたんだ。

「……でも」

結衣は小さく口を開く。

「蓮くんは優しいよ」

「優しくねぇよ」

「優しい」

結衣はまっすぐ蓮を見る。

「だって私、いっぱい助けてもらった」

雨の日も。
怖かった時も。
いつも蓮は、さりげなく手を差し伸べてくれた。

蓮は少しだけ目を見開く。

「だから、自分のことそんなふうに言わないで」

その瞬間。

蓮はふいに結衣の腕を掴んだ。

「……そういうとこ」

距離が近づく。

切なそうな目。

「期待するだろ」

低い声に、心臓が大きく跳ねた。

夕焼けの教室。

誰もいない静かな空間で、ふたりの距離だけが少しずつ変わり始めていた。