「放課後、君の隣で」

放課後。

結衣は図書室で借りた本を抱えながら廊下を歩いていた。

すると、階段の踊り場で蓮の姿を見つける。

女子数人に囲まれていた。

「神谷くん、今度みんなで遊び行かない?」

「ごめん、無理」

「え〜絶対またそれ言う!」

困ったようにため息をつく蓮。

結衣はなんとなく、その場を通りづらく感じて足を止めた。

すると蓮がふと顔を上げる。

結衣に気づいた瞬間、少しだけ表情が変わった。

「悪い、俺行くわ」

女子たちを置いて、まっすぐ結衣の方へ来る。

「帰り?」

「え、あ……うん」

「じゃ、一緒に帰る」

周りの女子たちがざわついた。

結衣は視線が痛くて落ち着かない。

「だ、大丈夫なの?」

「なにが」

「その……」

蓮は少しだけ結衣の顔を覗き込む。

「気にしてんの?」

近い。

また心臓がうるさくなる。

「別に、俺が一緒に帰りたいだけ」

その言葉に、結衣の思考が止まった。

外へ出ると、夕焼けが街をオレンジ色に染めていた。

並んで歩く時間が、少しずつ自然になっていく。

「そういえば」

蓮が口を開く。

「いつまで神谷くんなの」

「え?」

「名字、なんか距離ある」

結衣は目を丸くした。

「じゃ、じゃあ……」

急に恥ずかしくなる。

名前で呼ぶなんて、意識してしまうに決まってる。

「……れ、蓮くん」

小さな声。

すると蓮は足を止めた。

「……もう一回」

「えっ!?」

「ちゃんと聞こえなかった」

絶対嘘だ。

でも蓮は少し楽しそうに笑っている。

結衣は顔を真っ赤にしながら、もう一度口を開く。

「蓮くん……!」

数秒の沈黙。

そのあと蓮は、照れ隠しみたいに視線を逸らした。

「……破壊力やば」

「え?」

「なんでもない」

でも耳が赤い。

結衣はその横顔を見て、胸がぎゅっと熱くなる。

——もっと知りたい。

もっと隣にいたい。

夕焼けの帰り道。

まだ名前を呼んだだけなのに、世界が少し変わった気がした。