「放課後、君の隣で」

次の日。

教室に入った瞬間、結衣は思わず蓮の席を見てしまった。

窓際の一番後ろ。
蓮は机に頬杖をつきながら、ぼんやり外を眺めている。

目が合った。

「っ……!」

結衣は慌てて視線を逸らし、自分の席へ向かう。

その様子を見ていた親友の美桜が、ニヤッと笑った。

「なにその反応」

「え?」

「神谷くん見てたでしょ」

「み、見てない!」

「顔真っ赤だけど?」

図星すぎて何も言えない。

昨日、一緒に帰ったことを思い出すだけで胸が落ち着かなかった。

すると美桜が小声で言った。

「でも意外だなぁ。神谷くんって女子に興味ないタイプかと思ってた」

「そうなの?」

「だって告白されても全部断ってるらしいよ」

結衣の胸が小さくざわつく。

その時、教室の前が急に騒がしくなった。

「神谷くーん!」

他クラスの女子が数人、蓮を呼びに来ていた。

「これ、よかったら!」

可愛いラッピングの袋を差し出されても、蓮は困ったように眉を寄せる。

「……いらない」

教室がざわついた。

女子たちはショックを受けた顔のまま帰っていく。

「相変わらずだねぇ」

美桜は呆れたように笑う。

でも結衣は、少しだけ気になった。

どうしてあんなに距離を置くんだろう。

昼休み。

結衣が図書室で本を探していると、後ろから聞き慣れた声がした。

「また会った」

振り返ると、蓮がいた。

「神谷くん……!」

「本、好きなんだ」

「う、うん」

蓮は結衣の手にある小説を見る。

「恋愛もの?」

「えっ!? ち、違っ……これは、その……!」

慌てる結衣を見て、蓮が小さく笑った。

——笑った。

初めて見た。

ほんの少し口元を緩めただけなのに、心臓が止まりそうになる。

「別に恥ずかしがることじゃねぇだろ」

「……っ」

近い。

優しい声に、また胸が苦しくなる。

すると蓮は棚から一冊の本を取って、結衣へ差し出した。

「これ、面白かった」

ミステリー小説だった。

「神谷くん、本読むんだ」

「たまに」

結衣は受け取った本を見つめながら、小さく笑う。

「ありがとう。読んでみる」

その瞬間。

蓮は少しだけ目を細めた。

「……そうやって笑うんだな」

「え?」

「いや、なんでも」

そう言って視線を逸らす蓮の耳は、ほんのり赤かった。