「放課後、君の隣で」

校門を出ると、雨はさっきより強くなっていた。

蓮が傘を開く。

「ほら」

「あ、ありがとう……」

結衣は緊張しながら傘の中に入った。

近い。
肩が触れそうなくらい近い距離に、胸が落ち着かない。

蓮は無言のまま歩いている。
気まずい……と思った結衣は、必死に話題を探した。

「神谷くんって、部活入ってないの?」

「前は入ってた」

「前は?」

そこで蓮は少し黙った。

「……やめた」

それ以上聞いちゃいけない気がして、結衣も口を閉じる。

雨音だけが静かに響いた。

すると突然、蓮が立ち止まる。

「濡れてる」

「え?」

見ると、結衣の肩が傘から少しはみ出していた。

蓮は何も言わず、自分の方を濡らして傘を結衣側へ寄せる。

「神谷くんの方が濡れるよ!?」

「別に平気」

その言葉に、胸がきゅっとした。

優しい人なんだ。

クラスでは怖いって言われてるのに。
ちゃんと周りを見てる人なんだ。

駅前に着く頃には、結衣の緊張は少しだけ薄れていた。

「あの……今日はありがとう」

そう言うと、蓮は少し驚いた顔をする。

「礼言われるほどのことしてない」

「でも嬉しかったから」

結衣が笑うと、蓮は一瞬だけ目を逸らした。

……今、少し照れた?

その時。

「おーい蓮!」

明るい声が響く。

振り向くと、制服姿の男子が手を振っていた。

「マジで女子と帰ってるとか珍し」

「うるせぇ」

蓮が少し嫌そうに返す。

男子は興味津々な顔で結衣を見た。

「へぇ、蓮にもそういう相手いるんだ」

「違う」

即答だった。

なのに、なぜか少しだけ胸が痛かった。

結衣は小さく笑って頭を下げる。

「じゃ、じゃあ私こっちだから」

逃げるみたいに走り出す。

その背中を、蓮は黙って見つめていた。

そして小さくため息をつく。

「……違わねぇだろ」

雨音に紛れて、その声は誰にも届かなかった。