「え……?」
思わず声が漏れる。
目の前にいたのは、小学校高学年くらいの男の子だった。
少し癖のある黒髪に、大きな瞳。
研修施設に着いたとき、受付の近くで先生の手伝いをしていたのを見た覚えがある。
少年は私に腕を掴まれたまま、悔しそうに唇を噛んでいた。
「離してよ……!」
「ちょ、ちょっと落ち着いて」
慌てて手を離すと、少年は数歩後ずさる。
陸がしゃがみ込み、目線を合わせた。
「お前が食材を盗ったのか?」
その問いに、少年は俯いたまま小さく頷いた。
「……うん」
「どうして?」
結愛が優しく尋ねる。
少年はしばらく黙っていたけれど、やがてぽつりと呟いた。
「……みんな、どうせ適当に作るだけだから」
「え?」
「毎年そうなんだ」
少年は拳をぎゅっと握る。
「ここで作るカレー、みんなイベントだからって騒いで、失敗して、半分以上残して捨てる」
その声は、怒っているようにも、悲しんでいるようにも聞こえた。
「この施設の畑で育てた野菜なのに……おじいちゃんたちが一生懸命育てたのに」
私たちは顔を見合わせる。
新が静かに口を開いた。
「だから材料を隠したのか」
「……うん」
少年はこくりと頷いた。
「みんなに適当に使ってほしくなかった」
沈黙が落ちる。
その時、美琴が一歩前に出た。
「あなたの気持ちは分かります」
少年が顔を上げる。
「ですが、勝手に盗むのは間違っています」
まっすぐな言葉だった。
少年は肩を落とす。
「……ごめんなさい」
その空気をふっと和らげたのは、蒼真だった。
「じゃあさ」
眠たげな目を細めながら、ゆるく笑う。
「ちゃんと美味しく作ればいいんじゃない?」
「え?」
「俺らが本気で作って、ちゃんと全部食べる。それで解決」
陸もにっと笑う。
「いいじゃん、それ!俺料理番組で覚えた隠し技あるし!」
「絶対怪しいんだけど……」
結愛が苦笑する。
私は少年に向かって手を差し出した。
「一緒に作ろう?」
少年は目をぱちぱちさせた。
「……僕も?」
「うん。畑のことを一番知ってるんでしょ?だったら、美味しく作る方法も知ってるはず」
しばらく迷っていた少年だったけれど、やがてそっと私の手を取った。
「……陽斗(はると)」
「え?」
「僕の名前。白石陽斗」
そう言って、少しだけ笑った。
こうして“カレー材料消失事件”は解決。
私たちは陽斗と一緒に調理場へ戻り、改めてカレー作りを始めた。
陽斗の指示は的確だった。
野菜を切る順番。
火加減。
煮込むタイミング。
新が理論的に工程を整理し、美琴が正確に火を管理し、結愛が手際よく盛り付け、陸が場を盛り上げ、蒼真が味見を担当する。
そして私は、みんなを繋ぐように動き回った。
そうして完成したカレーは——
驚くほど、美味しかった。
「うまっ!」
陸が目を輝かせる。
「これは……かなりの完成度」
新まで素直に感心している。
陽斗も嬉しそうに笑っていた。
その時、私は思った。
バラバラだと思っていたこの六人は、案外悪くない班なのかもしれない。
思わず声が漏れる。
目の前にいたのは、小学校高学年くらいの男の子だった。
少し癖のある黒髪に、大きな瞳。
研修施設に着いたとき、受付の近くで先生の手伝いをしていたのを見た覚えがある。
少年は私に腕を掴まれたまま、悔しそうに唇を噛んでいた。
「離してよ……!」
「ちょ、ちょっと落ち着いて」
慌てて手を離すと、少年は数歩後ずさる。
陸がしゃがみ込み、目線を合わせた。
「お前が食材を盗ったのか?」
その問いに、少年は俯いたまま小さく頷いた。
「……うん」
「どうして?」
結愛が優しく尋ねる。
少年はしばらく黙っていたけれど、やがてぽつりと呟いた。
「……みんな、どうせ適当に作るだけだから」
「え?」
「毎年そうなんだ」
少年は拳をぎゅっと握る。
「ここで作るカレー、みんなイベントだからって騒いで、失敗して、半分以上残して捨てる」
その声は、怒っているようにも、悲しんでいるようにも聞こえた。
「この施設の畑で育てた野菜なのに……おじいちゃんたちが一生懸命育てたのに」
私たちは顔を見合わせる。
新が静かに口を開いた。
「だから材料を隠したのか」
「……うん」
少年はこくりと頷いた。
「みんなに適当に使ってほしくなかった」
沈黙が落ちる。
その時、美琴が一歩前に出た。
「あなたの気持ちは分かります」
少年が顔を上げる。
「ですが、勝手に盗むのは間違っています」
まっすぐな言葉だった。
少年は肩を落とす。
「……ごめんなさい」
その空気をふっと和らげたのは、蒼真だった。
「じゃあさ」
眠たげな目を細めながら、ゆるく笑う。
「ちゃんと美味しく作ればいいんじゃない?」
「え?」
「俺らが本気で作って、ちゃんと全部食べる。それで解決」
陸もにっと笑う。
「いいじゃん、それ!俺料理番組で覚えた隠し技あるし!」
「絶対怪しいんだけど……」
結愛が苦笑する。
私は少年に向かって手を差し出した。
「一緒に作ろう?」
少年は目をぱちぱちさせた。
「……僕も?」
「うん。畑のことを一番知ってるんでしょ?だったら、美味しく作る方法も知ってるはず」
しばらく迷っていた少年だったけれど、やがてそっと私の手を取った。
「……陽斗(はると)」
「え?」
「僕の名前。白石陽斗」
そう言って、少しだけ笑った。
こうして“カレー材料消失事件”は解決。
私たちは陽斗と一緒に調理場へ戻り、改めてカレー作りを始めた。
陽斗の指示は的確だった。
野菜を切る順番。
火加減。
煮込むタイミング。
新が理論的に工程を整理し、美琴が正確に火を管理し、結愛が手際よく盛り付け、陸が場を盛り上げ、蒼真が味見を担当する。
そして私は、みんなを繋ぐように動き回った。
そうして完成したカレーは——
驚くほど、美味しかった。
「うまっ!」
陸が目を輝かせる。
「これは……かなりの完成度」
新まで素直に感心している。
陽斗も嬉しそうに笑っていた。
その時、私は思った。
バラバラだと思っていたこの六人は、案外悪くない班なのかもしれない。


