繋ぐ手は何度でも

ステンドグラスを通した光が色鮮やかなカーテンのように



今日の主役へ降り注いでいる。



神父様が片言の日本語で尋ねる。



『愛を誓うか』



見たくない

聞きたくない

私以外になんでーー



黒く濁った私の視界を、

薄く開いた天窓から吹き込んだ風が真っ白に包み込んだ。



人波に押し流されるままに足を動かした。



綺麗に整えられたガーデンテラスが広がっている。



チャペルからテラスへと伸びる真っ白い大階段。

その中央にそびえ立つ噴水が妙に神々しく見えるのは、

天使を象った像が楽しげにはしゃいで見えるからだろうか。



スタッフの案内で手渡された色とりどりの花弁たちを他人事のように眺める。



「このまま握り潰してしまおうか」



そんな悪魔の囁きが、胸の奥で静かに響いた。



「知」



懐かしい甘い声に、思考が現実へと引き戻される。



「英。来てたんだ」



男にしては少し高めの、甘い声。

私の幼馴染だ。



「来ないと思ってたよ」



「来るつもりはなかったよ」



「まあ、大人の事情ってやつだ」



言葉を濁すと、

「お前も大変だな」

と、その色男は顔を曇らせた。



「そんな顔しないでよ」

私は大丈夫だから。



「強がりマンの大丈夫は信用しません」



何てことを言うんだ。



そう思って顔を見ると、

ふくれた頬に『納得できない』と書いてあるようだった。



相変わらず、子どもっぽい仕草がよく似合うやつだ。



「なら、これあげる」





――私には、この花弁を投げることはできない。



握りしめた拳を、英の胸に押しつけた。



英は顔色ひとつ変えず、

胸元にある私の手を強く握りしめた。



『大変お待たせいたしました! 新郎新婦のご登場です!』



マイク越しの声に、二人して我に返る。



英は私の手から花弁を受け取ると、

新郎新婦が現れる方向へ、壁になるように立ち塞がってくれた。



「ありがとう」



「別に」



歓声が上がる。

ずっと遠く、上の方で。



太陽に照らされて輝くシルバーが、

やけに目に染みた。



まだまだ半人前だな、と思った。



あの日

全部を

青に沈めたはずだったのに。



醜い嫉妬心は私にしっかりと根を張っていたみたいだ。



あっという間だ。

結婚式といえばのイベントが始まった。



女性陣がこぞって前へと出ていく。

「佐藤はいかねーの?」

拓未の友人、松川にそう問われた。

「はぁ?」

「ちょ、英」

「無神経すぎんだろ」

「ブーケ取ったところで飾るとこないしね」



「ふーん」

そう言うと松川は仲間内の元へ戻っていった。



「なに、あいつ」

まじありえねぇ。なんてまたむくれてしまった。



「拓未の高校の時の友達なんだよ」

「知るか」



英は、新婦である結の招待客だ。

私と結、英は小・中学校が同じだった。



「ねぇつーちゃん」

「懐かしい呼び方するじゃん、なぁに?」



ーーおれじゃダメ?



真っ直ぐな声が観衆のざわめきをかき消した



「な、にが……?」

「本気だからね、俺」



言葉通り、ふざけてなんかいないのだろう



ーー何を急に....



「知!」

マイクを通した大きな声

頭上が陰り、手元へ何かが落ちた





「ぶーけ.....」



オレンジと緑が鮮やかな

でも結が選んだようには思えないカラーリングのブーケだ。



前を見る



今日、初めてちゃんと

並び立つ二人を見た



シルバーに輝くタキシード姿の拓未

プリンセスラインのウェディングドレスを着た結



ふんわりとしたシルエットのそれは、可愛らしい彼女に良く似合っていた。



唖然とした顔で拓未が結を見ている



薄いピンク色の唇が震えている



彼女らしくない、強い瞳。



跳んできたブーケにもう一度目を向けた。



「菊の花だ」



鮮やかなブーケに、この場には相応しくない



〈真っ白い菊の花〉



それが一輪

ブーケのど真ん中に佇んでいた



もう一度、結を見やる



桃色の唇が

『待ってるから』



と音もたてずに告げた。





幸せを告げる鐘の音が遠くなる。



いつだったか、二人で見つめた緑色のカーテンが



私だけをどこかへ連れ去った。