気付けば、隣にいた  - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -



翌朝。

目覚ましより少し早く目が覚めた。

カーテンを開けると、春の柔らかな光が部屋へ入り込む。

もうすぐ。

本当に春になるんだな。

そんなことを考えながら、ふと昨日のことを思い出す。


「咲く前も桜だろ」


想くんの言葉。

不思議だった。

たった一言なのにずっと心に残っている。

最初、想くんは怖かった。

無口で何を考えているのか分からなくて。

同じ家に住むことになった時も、正直少し緊張していた。

でも風邪を引いた時。

マフラーを貸してくれた時。

湊都から守ってくれた時。

いつも欲しい言葉をくれた。


「……」


スマホを見る。

特に連絡が来ているわけじゃない。

それなのに。

少しだけ、残念に思った自分に驚いた。


「何考えてるんだろ」


小さく呟く。

想くんが笑うと嬉しい。

名前を呼ばれると少しドキッとする。

一緒にいる時間が、もっと続けばいいと思う。


これって。


「……」


そこまで考えて、慌てて首を振る。

違う。

まだ違う。

私は一度、恋で傷付いた。

もう簡単に誰かを好きになるなんて。

そう思っていたはずなのに。


「茉桜ちゃん?」


ドアの外から希遥さんの声がする。


「起きてる?」

「あ、はい!」


慌てて返事をする。


「朝ごはんできてるよ」

「今行きます」


部屋を出る。

階段を下りると、いつものリビング。

そして。


「おはよう」

「……おはよう」


想くんと目が合う。

ただそれだけ。

いつもの挨拶。

なのに昨日より少しだけ胸が温かくなった。