朝。
目を覚ますと、カーテンの隙間から冬の柔らかな光が差し込んでいた。
昨日の出来事を思い出し、小さく息を吐く。
手首を見る。
赤く残っていた跡は、少し薄くなっていた。
「……よかった」
リビングへ向かう。
階段を下りると、コーヒーの香りがふわりと漂ってきた。
「おはようございます」
「おはよー!」
キッチンでは希遥さんが食パンを焼いていて、柊弥さんは新聞を広げている。
「茉桜、おはよう」
柊弥さんが優しく笑う。
「手首、大丈夫?」
「はい。昨日より全然」
そう答えると、2人ともほっとしたような表情を浮かべた。
その時。
「……おはよう」
後ろから聞き慣れた声がする。
振り返ると、想くんが眠そうな顔でリビングへ入ってきた。
「おはよう」
いつも通り挨拶を返す。
でも。
想くんは一瞬だけ私と目を合わせると、すぐに視線をそらして冷蔵庫へ向かった。
「あれ……?」
思わず小さく首をかしげる。
いつもなら、「おはよう」と返して終わり。
それだけなのに。
今日はどこか、ぎこちない気がした。
「想、寝不足?」
柊弥さんが何気なく聞く。
「……ちょっと」
「課題?」
「うん」
短く答えながら、牛乳をコップへ注ぐ。
その横顔は普段と変わらない。
でも、なんとなく落ち着かない。
「茉桜ちゃん?」
希遥さんが小さな声で耳打ちしてくる。
「昨日のこと、気にしてるんじゃない?」
「え?」
「想、責任感じてそう」
その言葉に、私は想くんの方を見る。
カップへ口を付けたまま、こちらは一度も見ない。
……やっぱり昨日のことかな。
「私のせいで、変に気を遣わせちゃったのかも」
思わず小さく呟く。
「あとでちゃんとお礼、言おうかな」
「うん」
希遥さんは笑って頷いた。
「想ならきっと、それで安心するよ」
私はもう一度だけ想くんを見る。
相変わらず何も変わらない横顔。
でもどこか、昨日までとは少しだけ違って見えた。
どうしてなんだろう。
その理由は、まだ分からなかった。
