その一言に、私は思わず想くんの方を見た。
想くんは私を見ることなく、ご飯をひと口食べていた。
「でも」
思わず口を開く。
「想くんに迷惑かかるよ」
噂はもう建築学科にも広がっているはずだ。
付き合っていることになれば、きっと想くんもいろいろ聞かれる。
私だけの問題じゃない。
「別に」
返ってきたのは、いつも通りの短い返事だった。
「迷惑じゃない」
「……でも」
「茉桜」
柊弥さんが穏やかな声で私を呼ぶ。
「想は、迷惑だったらこんなこと言わないよ」
「え?」
「自分が損するって分かってることは、基本やらない」
「ちょっと」
想くんが少しだけ眉をひそめる。
「変な言い方すんな」
「事実だろ?」
「……」
否定はしない。
その様子に、希遥さんがくすっと笑った。
「つまり、想は茉桜ちゃんを守る方を選んだってことだね」
「希遥」
「だってそうじゃん」
希遥さんは悪びれもせず笑う。
「自分の噂なんてどうでもいいって思ったから、ああ言えたんでしょ?」
その言葉に、想くんは箸を止めた。
「……どうでもいいとは言ってない」
ぼそりと返す。
「面倒だとは思ってる」
「そこは否定しないんだ」
柊弥さんが笑うと、リビングの空気が少しだけ和らいだ。
私も思わず笑ってしまう。
さっきまで胸を締めつけていた不安が、少しだけ軽くなった気がした。
それでも。
“付き合っている”
その嘘が、これから先どんな形で広がっていくのか。
その時の私は、まだ何も分かっていなかった。
