奈瑠に腕を引かれ、人の少ない廊下へ移動する。
「……で?」
腕を組みながら、じっと私を見る。
「何があったの?」
私は小さく息をついた。
「昨日ね……」
校門で湊都に呼び止められたこと。
帰ろうとしてもついてきたこと。
想くんが偶然通りかかったこと。
そして――。
「『付き合ってる』って……?」
奈瑠が目を丸くする。
私は申し訳なさそうに頷いた。
「咄嗟に言ってくれたの」
「えぇ……」
奈瑠は額に手を当てる。
「それは噂になるよ」
「だよね……」
「しかも手まで繋いだんでしょ?」
「……あれも」
思い出しただけで顔が熱くなる。
「その場を離れるためだったと思う」
「想くんらしいっていうか、らしくないっていうか……」
奈瑠は苦笑する。
「でも、それくらいしないと湊都が引かなかったってことでしょ?」
「うん……」
昨日の湊都の視線を思い出す。
あのまま想くんが来なかったら。
私はどうしていただろう。
考えるだけで胸がざわついた。
「茉桜」
奈瑠の声が少し真剣になる。
「これ、もう偶然じゃないと思う」
「……」
「2日続けて大学まで来て、昨日は話しかけてきたんだよね?」
私は静かに頷く。
「だったら、また来るかもしれない」
その言葉に、胸がどくりと鳴る。
「しばらくは、1人で帰らない方がいい」
「でも……」
「遠慮しなくていい」
奈瑠は私の肩にぽんと手を置いた。
「私もいるし、希遥さんもいる。想くんだって、きっと放っておかない」
想くんの名前を聞いて、昨日の「分かってる」という短い声が頭に浮かぶ。
あの一言だけで、どれだけ安心しただろう。
私は小さく笑って頷いた。
「……ありがとう」
