気付けば、隣にいた  - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -



思わず逸晟を見る。


「違う」


即答だった。


「そういうんじゃない」

「じゃあ何であんなこと言えたんだよ」

「……」


言葉に詰まる。

あの場では、それしか思いつかなかった。

近付かせたくなかった。

あいつがまた茉桜を傷付けるのを、見ていられなかった。

ただ、それだけだ。

……それだけのはずなのに。


「想?」

「……あいつ、困ってたから」


ようやく出てきた言葉は、それだけだった。

逸晟はじっと俺の顔を見る。


「ふーん」

「何だよ」

「いや」


逸晟は意味ありげに笑う。


「困ってる女の子なら、誰でも助ける?」

「……」

「付き合ってるって嘘までついて?」


返せない。

そんなこと、今まで一度もしたことがない。


「想」

「……」

「お前さ」


逸晟は肩をぽんと叩いた。


「自分が思ってるより、分かりやすいぞ」


そう言って笑いながら教室の後ろへ歩いていく。

俺だけが、その場に取り残された。

分かりやすい?

何が。

俺はただ、茉桜が困っていたから助けただけだ。

……それだけだ。

そう自分に言い聞かせる。

なのに。

頭の中には昨日、驚いたように俺を見上げた茉桜の顔ばかりが浮かんでいた。