気付けば、隣にいた  - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -




「……それとも」


湊都は私を見て笑う。


「もう付き合ってたりする?」

「違っ——」


思わず否定しようと口を開く。

その瞬間。


「そうだけど」


静かな声が、私の言葉を遮った。


「……え?」


思わず想くんを見上げる。

湊都も一瞬だけ目を見開く。


「付き合ってる」


想くんは表情を変えない。


「だから、もう茉桜に近付くな」


その声は低く、静かだった。

怒鳴っているわけじゃない。

それなのに、その場の空気が一気に張りつめる。


「……は?」


湊都が乾いた笑いを漏らす。


「嘘だろ」

「信じるかどうかは勝手」


想くんは一歩だけ前へ出る。

自然と私をかばうような位置だった。


「でも」


まっすぐ湊都を見る。


「こいつは嫌がってる。見てれば分かるだろ。……それでも付きまとうなら」


少しだけ間を置く。


「もう元彼とか関係ない。ただの迷惑だ」

「……は?」


湊都の表情がわずかに険しくなる。

想くんはそれ以上何も言わなかった。

ただ、その視線だけは一歩も引かない。

沈黙の方が、言葉よりずっと重かった。

やがて想くんは私の方へ向き直る。


「……行くぞ」


そう言って、私の手首を軽くつかむ。


「う、うん」


突然のことに頭が追いつかない。

そのまま数歩歩いたところで、想くんの手が私の手へと滑る。

気付けば、指先が重なっていた。

……手、繋いでる。

あまりにも自然すぎて、声も出ない。

後ろから、低い声が聞こえた。


「茉桜」


足は止めない。


「俺、諦めないからな」


振り返らなくても分かった。

その視線は、きっと私じゃなくて。

隣を歩く想くんへ向けられていた。