気付けば、隣にいた  - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -



学祭で言われたこと。

復縁を迫られたこと。

想くんが助けてくれたこと。

泣いてしまったこと。

全部思い出してしまう。


「……ちょっと色々あって」


それだけ付け加えると、希遥さんは察したように小さく頷いた。


「そうだったんだ」


しばらく2人で歩く。

駅前は夕方の人混みで賑わっていて、周りからは楽しそうな話し声が聞こえてくる。

その中で、希遥さんだけが静かに口を開いた。


「茉桜ちゃん」

「はい?」

「今日のあれ、偶然だと思う?」


その質問に、私はすぐ答えられなかった。

昨日も、今日も。

同じ場所で会った。

偶然だと思いたい。

そう思いたいのに。


「……分からない」


ぽつりと本音がこぼれる。


「でも、考えすぎかもしれないし」

「そうかなぁ」


希遥さんは少しだけ眉をひそめた。


「私だったら、ちょっと怖いかも」


その一言で、胸の奥が小さく痛んだ。

怖い。

その言葉を聞いた瞬間、今まで無理やり押し込めていた気持ちが少しだけ顔を出す。

本当は。

私も少しだけ、怖かった。


「もしまた会ったら」


希遥さんが真っすぐ私を見る。


「1人で何とかしようとしちゃ駄目だからね」

「……うん」

「私でも、柊弥でも、想でもいい。ちゃんと頼って」


想くんの名前が出て、少しだけ胸がざわつく。


「分かりました」


そう返事をすると、希遥さんはようやく安心したように笑った。


「よし。それじゃ帰ろっか!」