気付けば、隣にいた  - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -



翌日。

講義を終え、偶然遭遇した希遥さんと私は一緒に大学を出た。


「今日も寒いですね」

「昨日より風強くない?」


マフラーへ顔を埋めながら歩く。

空はよく晴れているのに、冷たい風だけが容赦なく頬を刺した。


「帰ったら鍋の残り食べようかな」

「いいですね!」


そんな何気ない話をしながら、校門へ向かう。

昨日のことは、できるだけ考えないようにしていた。

きっと偶然。

そう思うことにした。

だから。

校門を出た瞬間、思わず足が止まる。


「……え」


道路を挟んだ向こう側。

街路樹のそばに立つ黒いコート姿。

見覚えのある横顔。

昨日と同じだった。

湊都。


「茉桜ちゃん?」


希遥さんが私の視線を追う。


「……知り合い?」


私は小さく頷く。


「うん……」

「声掛けないの?」

「……いい」


そう答えた瞬間だった。

湊都がこちらへ気付く。

目が合う。

昨日と同じ。

何も言わない。

ただ、じっとこちらを見ている。

その視線に、胸の奥がざわつく。


「帰りましょ」


私は希遥さんの腕を軽く引いた。


「え?う、うん」


なるべく平静を装って歩き出す。

早歩きにならないように。

気付かれないように。

そう思っているのに、足は自然と速くなっていた。

交差点の信号で立ち止まる。

何気ないふりをして道路の向こうへ目を向けると、


「……っ」


湊都もこちらへ向かって歩き始めていた。

思わず息をのむ。


「茉桜ちゃん?」

「……行きましょ」


青信号へ変わると同時に歩き出す。

振り返らない。

振り返ったら、本当に追いかけてきている気がしてしまうから。

駅前へ差しかかったところで、私は思わず後ろを見た。


「……いない」


人混みの中に、黒いコートは見当たらなかった。

胸をなで下ろす。

それなのに。

安心したはずなのに。

胸のざわつきだけは、少しも消えてくれなかった。


「茉桜ちゃん」


希遥さんが歩く速度を少しだけ落とした。


「昨日から、なんか様子おかしいよね」

「……そうですか?」

「うん」


少し言いづらそうに私を見る。


「さっきの人と、関係ある?」

「……」

「無理して話さなくていいよ」

「あの人、元彼で」

「え?」

「ゴールデンウィークはたまたま会って。学祭でも少し会ってて」