気付けば、隣にいた  - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -



冬休みが終わり、大学にはいつもの日常が戻ってきた。


「あけましておめでとう!」

「あけおめ!」


キャンパスのあちこちで、そんな声が飛び交う。

年末年始の出来事を話す学生たちで、構内はいつも以上に賑やかだった。


「茉桜、おはよう!」

「奈瑠!おはよう。今年もよろしくね」

「こちらこそ!」


奈瑠と並んで講義室へ向かう。


「お正月どうだった?」

「実家帰って、お餅食べて寝て……の繰り返しかな」

「奈瑠らしい」

「茉桜は?」

「私は帰らなかったんだ」

「そうだ、シェアハウスだったね」

「うん」


年越しのことを思い出す。

テレビを見ながら笑って。

初詣へ行って。

おみくじを引いて。

思い返すと、どれも何気ない時間だったはずなのに、不思議と心に残っている。


「どうした?」

「え?」

「なんか今、嬉しそうだった」

「そ、そんなことないよ!」


慌てて否定すると、奈瑠がにやりと笑う。


「怪しい」

「怪しくないって!」

「想くんとなんかあったでしょ!」

「何にもない!てかなんで想くん?」


笑い合いながら講義室へ入る。

午前中の講義はあっという間に終わり、お昼休み。


「学食行こ!」

「うん!」


奈瑠たちと一緒に校舎を出る。

その時だった。

ふと、視線を感じた。


「……?」


何気なく振り返る。

人の行き交う通路。

学生たちが次々とすれ違っていく。

でも。

誰もこちらを見ている様子はない。


「茉桜?」

「どうしたの?」

「……ううん」


気のせいかな。

そう思って歩き出す。

けれど。

建物の柱の陰から、その後ろ姿を見つけた。

黒いコート。

見覚えのある横顔。

ほんの一瞬だけ目が合う。

その人物は、何事もなかったように人混みへ紛れていった。

胸の奥が、ひやりと冷たくなる。


「……湊都」


小さく漏れたその名前は、誰にも聞こえなかった。