人の流れに合わせて、少しずつ本殿へ近づいていく。
冷たい空気の中、白い息が何度も空へ溶けていった。
「結構並ぶね」
「元日だからな」
前を見ると、参拝の列は鳥居の近くまで続いている。
それでも、不思議と長くは感じなかった。
周りから聞こえてくる楽しそうな話し声や、小さな子どもの笑い声。
お正月らしい穏やかな空気が、境内全体を包んでいた。
ようやく順番が回ってくる。
私はお賽銭を入れ、鈴を鳴らした。
静かに目を閉じる。
今年も、大切な人たちが元気に過ごせますように。
家族のみんなも。
大学のみんなも。
そして──
桜ノ木ハウスのみんなも。
もう誰かを失うような悲しい思いは、したくない。
ゆっくり目を開ける。
隣では想くんも手を合わせていた。
普段はこういうことに興味がなさそうなのに、思っていたより真剣な表情をしている。
「何お願いしたの?」
参拝を終え、階段を下りながら聞いてみる。
「秘密」
「えー、教えてよ」
「願い事は人に言わない方がいいだろ」
「そうなの?」
「知らん」
「知らないの?」
思わず笑ってしまう。
「想くんらしい」
「何それ」
「なんとなく」
想くんは小さく肩をすくめるだけだった。
すると、少し先に『おみくじ』と書かれた看板が目に入る。
「あっ!」
私は思わず足を止める。
「想くん、おみくじ引こう!」
「……引くの?」
「せっかく来たんだし!」
「まあ、いいけど」
そう言って想くんは財布を取り出した。
並んでおみくじ箱の前に立つ。
今年最初の運試し。
私は少しだけ胸を弾ませながら、箱へそっと手を伸ばした。
