気付けば、隣にいた  - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -



境内へ入ると、参拝客で思っていた以上に賑わっていた。


「思ったより混んでるね」

「元日だからな」


参道には長い列ができている。

私は想くんの後ろを歩きながら、きょろきょろと屋台を眺めた。


「りんご飴だ!」

「フルーツ飴もある」

「あ、本当だ」


つい足を止める。


「学祭思い出すね」

「ああ」

「あの時は大変だったなぁ」

「お前が看板倒しかけたり」

「もう、その話やめてよ」


思わず頬を膨らませる。


「事実」

「想くん、絶対忘れないよね」

「忘れる理由ない」

「意地悪」


そんなやり取りをしているうちに、人の流れが少しずつ動き始めた。


「……あ」


気づいた時には、私の前へ何人もの参拝客が入り込み、想くんの姿が見えなくなっていた。


「あれ……?」


背伸びをして辺りを見回す。

黒いコートの人ばかりで、どこにいるのか分からない。


「想くん?」


声は人混みに紛れてしまう。

少しだけ不安になり、人の流れに合わせて歩こうとした、その時だった。


「茉桜」


聞き慣れた声。

振り返るより先に、そっと手首をつかまれる。


「……わっ」

「こっち」


想くんだった。


「人多いから」


それだけ言って、私を人の流れから少し外れた場所へ引き寄せる。

手はすぐに離れた。


「あ、ごめん……」

「謝るな」

「でも」

「見失う方が面倒」


ぶっきらぼうな言い方。

だけど、その声はどこか安心させるような優しさがあった。


「……ありがと」


私が小さく笑うと、想くんは少しだけ視線を逸らして、


「ほら、並ぶぞ」


とだけ言った。

私は「うん」と頷き、その隣へ並ぶ。

さっき一瞬だけ触れた手首が、冬の空気の中なのに少しだけ熱を持っている気がした。