気付けば、隣にいた  - 無愛想な同居人は、不器用に優しい。 -



夕飯を食べ終える頃には、外はすっかり暗くなっていた。

昼間の暑さが少しだけ和らぎ、窓を開けると、夜風がゆっくりとリビングへ流れ込んでくる。

蝉の声はいつの間にか聞こえなくなり、その代わりに、遠くから虫の鳴き声が聞こえていた。


「夜でも暑いね」


麦茶を飲みながらそう言うと、


「昼より全然いい」


希遥さんはソファにもたれながら大きく伸びをした。


「今日、いっぱい歩いたもんね」

「足ぱんぱん」

「明日筋肉痛かも」

「若いから大丈夫」

「その言い方、おじさんみたいですよ」


思わず笑う。

ダイニングテーブルには、夕飯の食器がまだ並んでいる。

茉尋は今日撮った写真を見返しながら、


「これ、いい感じ」


と、小さく笑っていた。

浅草。

スカイツリー。

食べ歩き。

今日だけで何枚撮ったんだろう。

思い出が増えていくのは、なんだか嬉しい。

その時。


「よし」


柊弥さんが立ち上がった。


「そろそろ花火やろっか」


その一言に、茉尋がぱっと顔を上げる。


「やる!」


即答だった。


「去年の残り、どこにあったっけ?」

「物置に入ってる」


想くんが短く答える。


「さすが想!」

「管理してるだけ」

「それがすごいんだって」


希遥さんが笑う。


「茉尋くん、線香花火やったことある?」

「あります。でも何年もやってないです」

「じゃあ今日は夏休みの締めだね」


柊弥さんがそう言うと、茉尋は少し照れくさそうに笑った。


明日には横浜へ帰る茉尋。

だからこそ、この何気ない時間も、少しだけ特別に思えた。

私は立ち上がって、テラスへ続く窓を開ける。

外には、昼間とはまるで違う、静かな夏の夜が広がっていた。