残されたのは、雅人と智也。
智也は改めて、丁寧に頭を下げた。
「で、お話というのは?」
雅人が静かに切り出す。
智也は一度だけ視線を落とし、言葉を選ぶように口を開いた。
「半年前まで、陽と付き合っていました」
「ようちゃんから聞いてます」
短い応答。
そのあと、智也はふっと息を吐いた。
「あなたと一緒にいる時の陽の顔が……」
少しだけ目を細める。
「三年以上付き合ってましたけど、見たこともない顔をしていたので」
わずかに笑う。
「猛烈に嫉妬してしまって…」
その言い方は穏やかだったが、言葉の奥には消えない感情が残っていた。
雅人はまっすぐに返す。
「でも、すでに別れた後でしたよね?」
智也は小さく頷く。
「ええ」
間を置いて、続ける。
「陽は、最初から最後まで」
視線を上げる。
「一度も、あんな顔を見せてくれたことはありませんでした」
その言葉を静かに置くと、智也はゆっくりと話し始めた。
過去をたどるように。
智也は、淡々と続けた。
陽の本の編集を担当することになって、仕事を重ねるうちに、自分の方から好きになったこと。
付き合い始めてから、ふと気づいたこと。
——陽から、一度も連絡が来たことがない。
試すように、連絡が来るまで待ってみたこと。
気づけば、十日が過ぎていたこと。
結局、自分から連絡してしまったこと。
会う約束も、いつも自分からだったこと。
最後まで一度も、「会いたい」と陽の口から聞いたことがなかったこと。
陽のスマホの待ち受けがいつもスカイツリーだから好きなのかと思って誘ったら
「遠くから見るものだから」
そう言って、展望台に行きたがらなかったこと。
夜になると、よく空を見上げていたこと。
何かあるのだろうと、ずっと思っていたこと。
部屋に行っても、どこか線を引かれているようで、
絶対に自分の荷物を置かせてくれなかったこと。
同棲の話も、やんわりと断られたこと。
結婚の話になるほどの熱も、感じられなかったこと。
言葉を選びながら、少しだけ苦く笑う。
「……年甲斐もなく、焼きもちを焼いてほしくて」
視線を落とす。
「自分から連絡するのをやめたり、他の女性を匂わせたりもしました」
小さく息を吐く。
店内のざわめきが、遠くに聞こえる。
雅人は、何も言わずに聞いていた。
ただ静かに、その過去を受け止めるように。
智也は改めて、丁寧に頭を下げた。
「で、お話というのは?」
雅人が静かに切り出す。
智也は一度だけ視線を落とし、言葉を選ぶように口を開いた。
「半年前まで、陽と付き合っていました」
「ようちゃんから聞いてます」
短い応答。
そのあと、智也はふっと息を吐いた。
「あなたと一緒にいる時の陽の顔が……」
少しだけ目を細める。
「三年以上付き合ってましたけど、見たこともない顔をしていたので」
わずかに笑う。
「猛烈に嫉妬してしまって…」
その言い方は穏やかだったが、言葉の奥には消えない感情が残っていた。
雅人はまっすぐに返す。
「でも、すでに別れた後でしたよね?」
智也は小さく頷く。
「ええ」
間を置いて、続ける。
「陽は、最初から最後まで」
視線を上げる。
「一度も、あんな顔を見せてくれたことはありませんでした」
その言葉を静かに置くと、智也はゆっくりと話し始めた。
過去をたどるように。
智也は、淡々と続けた。
陽の本の編集を担当することになって、仕事を重ねるうちに、自分の方から好きになったこと。
付き合い始めてから、ふと気づいたこと。
——陽から、一度も連絡が来たことがない。
試すように、連絡が来るまで待ってみたこと。
気づけば、十日が過ぎていたこと。
結局、自分から連絡してしまったこと。
会う約束も、いつも自分からだったこと。
最後まで一度も、「会いたい」と陽の口から聞いたことがなかったこと。
陽のスマホの待ち受けがいつもスカイツリーだから好きなのかと思って誘ったら
「遠くから見るものだから」
そう言って、展望台に行きたがらなかったこと。
夜になると、よく空を見上げていたこと。
何かあるのだろうと、ずっと思っていたこと。
部屋に行っても、どこか線を引かれているようで、
絶対に自分の荷物を置かせてくれなかったこと。
同棲の話も、やんわりと断られたこと。
結婚の話になるほどの熱も、感じられなかったこと。
言葉を選びながら、少しだけ苦く笑う。
「……年甲斐もなく、焼きもちを焼いてほしくて」
視線を落とす。
「自分から連絡するのをやめたり、他の女性を匂わせたりもしました」
小さく息を吐く。
店内のざわめきが、遠くに聞こえる。
雅人は、何も言わずに聞いていた。
ただ静かに、その過去を受け止めるように。

